「昔は星が嫌いだったんだ」

 闇の中にいるように鬱蒼と茂る森の中。
 見上げれば、微かに見える星の輝き。視線を戻せば、それにも劣らない艶やかな美貌の書生。
 少年は此方を見つめ、沈黙で話を促した。

「死んだ奴等は星になる。煌めく星々になって、遺った者達を見守ってくれるなんて聞いたらさ。何だかばつが悪くてな」
 ぽつりと漏らした男は、なみなみと清酒の注がれた杯を持ち上げた。 
 煩悩から抜け出せず、彼らの想いから逃げるようにして生きてきた後ろめたさに、いつも、何でもないような顔をしてきたが・・・・・・。
 湖面のように静かな表面を啜るでもなく、ふぅっと息を吹き掛ける。

「まともに見られるようになったのは、最近なんだ」
 杯を置き、ちょと座り直して、二人の距離を縮めた。

 継いだ名の基に、一途に駆け走るその姿。
 意志に潰され、期待を過剰に重く思うのではなく。
 想いを受けとめて進んでいけば、いつか光が見えてくる。
 例え今は、その道が昏くても。
 俺がお前に出逢えたように。

 少し。ほんの少し。
 昨日よりも去年よりも。
 温もりを感じる傍らで。
「お前とこうしていたいな」
 
 そっと重ねられた手を握り直して、今年初めての接吻けを落とした。
 






                                   2007.1.1