「はなしてもらえませんか」
角を曲がったところで、握っていた白指が、ほんの少し反り返った。
「え~、たまにはいいじゃない」
おどけて言う鳴海に、首を振った。
「手ではありません」
「じゃあ、デェトの続きを・・・」
「あの家のことです」
歩が止まる。
鳴海に任せて歩いてきたが、どうやら元大道寺邸前の雑木林付近らしかった。
「どうかした?」
「あの家の人はどうされたのですか?」
「用事」
「今日は、拾四日ですよ。長期休暇でもなければ、家人が出入りしていなければおかしいです」
「別宅かもしれないでしょ。お金持ちは、いっぱい家を持ってるからね」
「他にも理由があります」
「どんな?」
「新しい畳とお香です。おそらく畳を変えなければならない事が起こり、香で邪気と血の気配を祓ったのでしょう」
「ビンゴ! さっすがライドウちゃん♪」
ニヤリと大人は笑った。
「あの家、ちょっと事件があったのよ」
内容はこうだ。
年末にあの家で、小火騒動があった。
幸い寝静まる前だったので、すぐに消火され死者は出なかった。
問題は、「火の気のない部屋で小火が出た」ことだ。
「で、こっからが変なんだけど、目撃者によるとね。視線を感じて後ろを振り返ったら、宙に火の玉が浮いてたんだって。で、それがぶわっと大きくなったかと思ったら、部屋に燃え移ったんだとさ」
「火の玉と、視線―――ですか」
「俺達好みの話になってきただろ?」
「悪魔かもしれませんね」
「そ。だから、ライドウにも調べてほしくってね」
「一つ、質問があります」
「ん?」
「ゴウトと僕を離したのは、この件に関係あるのですか?」
握られていた手が、すぅっと離れる。
「解いてみなよ、この謎を」
まもなく煙草の香りがして、ふぅっと吹きかけられる。
ずるい大人の手元で、火種が笑うように揺れた。
「じゃっ、後は宜しく頼むねv」
そして、唐突に
鳴海が「消えた」。
異界化した証拠だった。
参へ
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2010.1.21
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