鼻の上を、すいと押し上げて。
 白い指は、本に戻る。
「珍しいですね」
 背後から、聞き慣れた声が覆い被さった。
「重い」
「宿題ですか」
 雷堂の抗議を、やはり白き掌が塞いだ。
 瑕一つない、五指。
 するりと雷堂の唇を撫で、頬を辿る。
「わかっているなら離れろ」
 耳元で笑い声。
 勢いをつけて抱きつく書生に、雷堂は怒ることを止めた。
 これはもう、好きに遊ばせておく方がいい。
 そのうち飽きるだろうから、と、視線をペェジに戻す。
 
 悪戯な指は、雷堂の首を掠め、見方を五人増やし、両目を狙う。
「あれ?」
 両手で雷堂の双眸を覆ったライドウは、違和感にようやく気づく。
「あなた、眼鏡をかけているんですか?」
「見えすぎるからな」
 ゆっくり手を剥がして、指の先端を摘んで雷堂は応える。
「眼鏡で、視力を弱めているのだ。そうしないと碌々文字も読めん」
「符を書く時も?」
「・・・・・・秘密だ」
「僕だけに教えて下さい」
「断る」


「ねぇ雷様」
「・・・・・・何だ」
「いつまで僕の手を握っているんですか?」
「そうだな」
 考える振りをして、雷堂はそれらを絡め合い、そのまま床に縫い止めた。
「うわっ」
「どうだ?」
「くらくらします」
 眼鏡越しに瞳を覗き込めば、そうなるだろう。
「お前も眼鏡を使うといい」
 ライドウにかけさせ、低く笑って。
 悪戯な指先に接吻けた。

「我を見る時だけ、な」









 
                                     2006.8.28