絡め手




 扉を開けると、キィ、と耳障りな音がした。
「やはり内部は変わりませんね」
「あぁ。あの椅子も、電話も筑土町と造りは同じだ」
 油断なく、二人は中へ入った。


 ライドウと雷堂は、異界の筑土町に来ている。
 鳴海が「最近どうも所長椅子に座ると肩が凝る」というので、異界の探偵事務所を見に来たのだ。
 いつかの晴海町でもそうだったが、異界が原因で体調不良になることも少なくない。
 何もなければ、それでよし。
 異常があれば断ち切る。
 ただ、それだけのことだった。


 改めて室内を見渡すと、特に魔の気配は感じられない。
 だとすれば、何か調度品にしかけられているかもしれない。

 ライドウはしゃがみこむと、所長の椅子を見聞した。
「何かあったか?」
「呪符、ですね」
 上から降ってくる声に、ライドウは応える。
「対象をじわじわと弱らせていくような呪が織り込まれています。命に別状はないと思いますが、破棄した方がよいでしょう」
「物騒だな」
「許されないことです」
 しかも、よりにもよって葛葉のいるこの場所を選ぶとは・・・・・・。
「悪意の臭いがします。しばらく、所内を警戒した方がよさそうですね」
「そうだな」
 符を滅却し、ライドウは立ち上がった。
「戻りましょうか」
 扉に向かおうとして、ライドウは行く手を立ちふさがれた。
「まだ、気になることが・・・・・・?」
「あぁ。本題が残っている」
「他の部屋も確認しますか?」
 促すように口を開くと、ぬるりと舌が入ってきた。

「何をするんです!?」
 
 慌てて雷堂を突き放すと、「うぶだな」と見当違いのことを云われる。
 かっとして唇を乱暴に拭うと、雷堂が顔の横に手を突きつけてきた。
 パン、と音がし、後ろが壁であることをライドウは知った。

「何のために異界までわざわざ貴様を連れてきたと思っている?」
 いやらしく笑う雷堂に、ライドウは眉をひそめた。
「調査を、するためでしょう」
 それに異界へ行かないか、と誘ったのは雷堂で。
 ライドウは日頃の恩に報いたくて、ありがたくその申し出に着いてきただけなのだが。
 そう語ると、雷堂は鼻を鳴らし、息がかかるほど近く顔を寄せてきた。
「だから貴様は甘いのだ」
「・・・・・・」
「我がここに来た本当の理由はな」
 ライドウの唇をぺろりと舐めて、雷堂は宣告した。

「貴様を思う存分、嬲るためだ」
 瞬間、雷堂の背後で何かが蠢いた。








 
 イチモクレンの手という手。触手だろうか、それがライドウの衣服へするすると進入していく。

「やめろ!」
 一喝したライドウに、イチモクレンはひるみ大きな目をぎょろぎょろ動かした。
 しかし、召喚者の命令は絶対。
 悪魔は、再びライドウに手を向けた。

「やむを得ません」
「・・・・・・」
 刀に手を伸ばしたライドウの手を、雷堂が素早く捉えた。
 目を見開くライドウの一瞬の隙を逃さず、足払いをし、床に押し倒した。
 管と刀を抜き取り、ライドウを着衣のみの格好にさせる。
「こういう時にマントは便利だな」
 背中を痛めずにすむだろう? とニヤリと笑う雷堂に、さすがにライドウも青ざめる。
「まさか。あなたは・・・・・・」
「嬲り方にも色々あるからな」
「馬鹿馬鹿しい」
「何なら、どう嬲られたいか聞いてやってもいいが」
「・・・・・・」
 頬に吐かれた唾を拭い、雷堂はライドウの口に指をつっこんだ。
「自分で出したものは、自分で始末せねばな?」
 中で指をかき混ぜ、雷堂は呪を発動させた。
「舌を噛めぬようにした。まぁ、せいぜい楽しもうぞ」








 堂々と椅子に腰掛け、雷堂は口を開いた。
「どうした? その程度の動きでは、萎えるだろう?]
 下から睨み付けてくるライドウに、ニヤリと笑い、雷堂はその様を存分に見た。
 緩くはだけられた白い胸元は、雷堂の舌と口で淡く色づいている。
 着崩れた衣服は、常にない淫猥さを醸し出していて。
 険もあらわな瞳は、濡れて色香を増している。
 四肢はイチモクレンに拘束され、雷堂の前に跪かされ、愛撫させられているライドウ。
 
 この姿をだれが想像できただろう?
 同じ十四代目を継ぐ者に支配され、使役するはずの悪魔に嬲られるライドウの姿など。
 稚拙な手つきに焦れた雷堂は、肘おきで頬杖を支え、呆れた表情をした。

「積極的ではないな、ライドウ。反抗する度に集魔の水でも撒くかな」
「な・・・・・・!?」
「異界を徘徊し、使役されぬ荒ぶる魔物に襲われる葛葉か。さぞかし惨めで見物だろうな」
「あなたという人は!」
「舐めろ」
「・・・・・・」

 屈辱に震えながら、ライドウは雷堂を咥える。
 
 怒りに赤らめた頬と、吐き出さないように涙を溜める表情が淫靡だ。
 緩く口腔に包まれた瞬間、それだけで腰が熱くなったが、雷堂は衝動を堪え、呪を唱える。
「・・・・・・っ? ひ、あっ・・・・・・!」
 ライドウは唐突に、悲鳴をあげた。
 なんとイチモクレンの触手がライドウのものに絡みついてきたのだ。
 ぬらぬらした手で、ライドウを緩急をつけて扱き、柔肌も愛撫する。
 与えられた未知の刺激に、ライドウは身体をくねらせ、目元を歪めた。

 理性を手放すまいとして、抗う姿が最高に相手を煽ることを知っているのだろうか?

 雷堂は、更にライドウを追い詰める。

「口が止まっているようだが」
「・・・・・・ふぁっ・・・・・・あぁ!」
 イチモクレンの動きを更に激しくさせると、がくがくとライドウの身体が揺れた。
 その振動が股間に伝わり、触手がライドウの口にもねじ込まれ、新たな快感が背筋を貫く。 これも悪くないな、と雷堂は微笑した。
 しかし強すぎる波に、思わずライドウは口から出してしまった。
「ふむ。仕置きをせねばな」
 ライドウを四つんばいにさせる。
「あ、あぁ・・・・・・!!」
 ぐい、と突き入れてやればきれいに反る白い背。
 あまり嬲らなかった後口が、不意の衝撃にわななき、けれど雷堂を取り込もうとする。
「さすが十四代目、か?」
 天性の艶めかしい誘いに、笑いながら雷堂も余裕をなくしていった。

「・・・・・・ライドウ。我慢せねば外套が汚れるぞ」
 床に敷かれたままのライドウのマントに、ぽたぽたと雫が垂れる。
「ふっ・・・・・・あっ、む、りです」
「世話のやける」
 ぐ、と濡れた根本を握ってやれば、ライドウは更に暴れた。
「い、いやだ、雷ど、」
「ふん。ではどうして欲しいのだ」
「それ、は」
 まだ躊躇うライドウに、雷堂は指に力を込め、腰を揺する。
 快楽と苦痛の狭間で、ライドウは泣いて啼いた。
 恐らく、雷堂がイチモクレンを帰還させたことすらわかっていないだろう。
 快楽を貪り、愉悦にまみれ、表情を恍惚とさせるだけだ。
「本当に淫乱だな」
「や、あっ・・・・・・」
 首筋をきつく吸い上げれば、擦られた箇所が変わったのかライドウの背が波打ち仄かに染まる。
 白い大地のそこらかしこに、紅い花が浮かび上がった。
「貴様を、他の者にとられたくはないからな」
「・・・・・・っ、あっ・・・・・・?」




 呪は直接、貴様に仕込んでおくか・・・・・・。



「雷、堂?」
 不意に黙り込んだ雷堂を、ライドウは振り返り見つめる。
 うわごとのように名前を呼ばれ、雷堂は自分の限界がその度に近くなるのを感じた。
 いったん自身を引き抜くと、ライドウを仰向けにし先ほどより深く突き入れる。

「ライ、ドウ」
 耳元で名を呼んでやると同時に、雷堂は互いを解放した。










「あれ、今日も二人でお出かけ?」
「異界の方へ調査をな」
「ふうん。無茶しないようにね」
「・・・・・・」
 疑いもなく手を振る鳴海に二人は背を向け、事務所を後にした。



 震える白い手に、自分の固い手を絡める。


 今日もまた、あの場所へ行くために。










 初エロでございます。雷堂鬼畜! しかも触手! うを~素敵アイテムの割に、あまりやらしくなくてごめんなさい! いや、もう、はい反省してます。色々と。

 雷堂が椅子に呪符をしかけたか否かは、どちらを取ってくださっても構いません。

 ふはは、しかし雷堂さん飛ばし過ぎです。さすがの十四代目というべきか。ブイブイいわせてますなぁ、ブイブイ。ライドウがあれを「基本」と思ったらどうするんだ。
 
 そして、鳴海さん・・・・・・うん、知らぬが仏ですね★
 二人の様子に、何か気づいたかもしれませんが、うーむ所長ファイト!(何を?)


 ・・・・・・次はゴウライかなぁ。

 
 読了ありがとうございました!
      


                                          2006.5.23