「ライドウ! そこへ座れ!」
 息も絶え絶えに、ゴウトは肉球を向けた。
 昼下がりの探偵事務所。何事かと覗き込もうとした鳥たち悪魔たちは、翠玉の眼光に慌てて窓から退散した。
 ちょこんとソファに正座した十四代目に、ゴウトは机に上って威嚇する。
 尻尾で、陪審員のように机上の物を叩いた。
「ライドウ。お前最近たるんでないか」
「はぁ」
「その若さでライドウの名を継いだことには感歎する。だがな、油断は命取りになる。己を戒め、常に高みへ臨む。わかるな?」
「はい」
「・・・・・・だったら、帝都守護には無用な一切の物を捨てろ。俺に寄越せ」
「・・・・・・貞操」
「は!?」
「何でもないです」
 まじまじとゴウトはライドウを見つめたが、「まぁいい」と嘆息する。
「お前はまだ若い。遊びたい盛りかもしれんが、羽目を外しすぎるなよ」
「・・・・・・ゴウト。確かに僕は、あなたに比べればまだまだ青いのかもしれない。だが、十四代目葛葉ライドウとして後ろめたいことをした覚えはありません」

「だったらその懐のねこじゃらしは何だー!!!」
「愛の鞭です!」
「素面で云うな!」
「僕はゴウトだけを愛しています! そして愛情表現には無限の可能性と互いにわかりあえない部分があると女学生も云っていました!」
「読心術の無駄使い!」
「あぁっ・・・・・・!」
 ライドウの懐にもぞもぞと進入したゴウトは、まんまとブツを没収した。
 しかし、
「甘い! ゴウト!」
 ライドウは叫ぶと同時に、管を一本抜き放つ。
「まさか!」
 マグネタイトの輝き。
 どんな反則技を使ったのか・・・・・・光が消え去った後には、ライドウの両手いっぱいに、

 ね・こ・じゃ・ら・し。

 硬直したゴウトの隙を見逃さず、ライドウはさっと懐に押し込み、睨んだ。


「ねこじゃらしはねこじゃらしだけは渡さない!」
「あ、阿呆! 初代の云うことが聞けんのか!」
「じゃあ交換条件といきましょう」
「駄目だ!」
「嫌だ!」
「寄越せ!」
「・・・・・・ゴウトのわからず屋! それならば!」
 
 更に懐に手をやるライドウに、ゴウトは黒い毛を逆立て、ぎゅっと目を閉じ・・・・・・
 
 
 鼻を温かいものに包まれた。
 ざらりとしたものに舐められ、愛撫され、ちゅっと吸われる。
「・・・・・・!?」
「ふふふ」
 口を拭うライドウに、ゴウトはようやく事態を悟った。
「お、おま」
「ゴウトって、こういう味がするんですね」
 にやりと笑うのは、ゴウトの鼻をぱくりと味わった書生。

「まったりとして、こくがあって・・・・・・ちょっとやらしい味かな?」
「どこでそんな言葉を」
「それはまぁ・・・・・・」
「頬を染めるな!」

「さて、次はどこを味わわせてくれるのかな?」
 うっとりと微笑むライドウが、両手を大きく広げる。
「さぁ選んで。ねこじゃらしがいい、それとも僕の・・・・・・?」

 嗚呼その胸には、あの草が・・・・・・。

「ゴウト、おいで」






「おや? 珍しいね。二人が喧嘩?」
「いいえ。愛の営みです」
「お前・・・・・・もういい」
 そっぽを向いてふて寝するゴウトと、にこにことその背を撫でるライドウを見て、鳴海は目を瞬かせる。
 通り過ぎようとした足下で、使用済みのねこじゃらしが微かに音をたてた。








 Trick or Treat?
 ねこじゃらしがいい? それとも愛がいい?(ここだけ設定)
 
 結局、両方とったのでしょうかね?(笑)



 
先日テレビを見ていると、犬の鼻を舐めて犬種を当てる凄いおばさまがいました。
 ちょっと鳥肌がたったのですが、
「ライドウちゃんならするかも」
 と思い直し、書いちゃいました。ゴウライに見せかけたライゴウ?
 今回いろんな意味でライドウが弾けているような気がします。でもライドウちゃんならこれくらい(以下略)
 あと、つくづく細やかな猫の習性・仕草がわからんと反省しました。うーむ猫は懐かれても飼ったことはないので。縁側で茶飲み友達(?)にはなりたいですけどねv

 ふふふ、勢いで書いた話って怖いね♪ というお話でした★



                                 2006.6.22