柔らかい感触に口づけて、うっすらと目を開けた。
雷堂の寝床は、お世辞にも柔らかくない。
いわゆる煎餅布団で、自分で洗ったシーツだけが唯一すべすべで心地よいという代物である。
・・・・・・柔らかいと感じるなど、ありえないことなのだが。
起き上がろうとして、雷堂は目を見張った。
・・・・・・先ほど唇にあたったのは、これだろうか。
息を呑むほど白い肌。
呼吸するたびに上下する鎖骨のライン。
視線をずらせば、微かに開かれた紅い唇。
光沢のある歯を見て、歯並びがいいなと意味のないことを思う。
たっぷり十秒ほど混乱して、雷堂は殺気を噴き出した。
「起きろ十四代目!!!」
上位の悪魔すらなぎ倒す怒号に、ライドウも(ゆっくりだが)目を覚ます。
しかし、すぐに目を閉じ
「あぁ・・・・・・おはようございます。では、おやすみなさい」
「貴様、説明もせず二度寝するなど許されると思っているのか」
雷堂は睨み付けたが、ライドウはびくともせずに寝返りを打った。
「昨夜は、あなたが激しすぎたから寝不足なんです。もう少し寝かせてください」
「我がなにをしたと・・・・・・!?」
ぎょっとして声が裏返る雷堂。
「覚えていないのですか?」
「だから何をだ!?」
「罪な人ですね」
白々しく溜息など吐いて、ライドウは布団にくるまる。
「責任、とってもらいましょうか」
「はぁ!?」
「今日も、明日も、次の日も―――して、くれますか」
振り返ったライドウの伏せがちな双眸に、期待と不安が宿る。
絶体絶命。
雷堂は無意識に得物を探し、
「ん?」
そこで違和感を覚えた。
「なぜ我は裸なのだ?」
「僕も裸ですよ」
「何だと!?」
ばさっと布団をめくれば、確かに寸分の狂いなく二人は裸であった。
だとすればライドウの云う「責任」とは、一夜の過ちから来る責任なのか?
そうなのか、やはりそうなのか!?
だが、
「記憶がないぞ!」
思わず悲鳴を上げると、雷堂の傷だらけの肩に、優しく手が置かれた。
「言い逃れですか? あなた」
「あなた!?」
「あんなに温めあった仲なのに」
潤んだ瞳で見つめるライドウに、雷堂は蒼白になった。
あってはならないことだが、ふらりと身体が傾ぐ。
手をついた場所には
「・・・・・・ライドウ」
「はい?」
「我らは昨夜、同衾したのだな?」
「えぇ」
「聞くが、何人でおこなったのだ」
雷堂が危うい言葉を発したのには理由があった。
雷堂とライドウの僅かな隙間にお目付役が寝ていたのだ。
「思い出しましたか?」
「先に質問に応えろ」
「せっかちですね」
蠱惑的な笑みを浮かべてライドウは口を開いた。
「昨夜、ゴウトが寒気がすると云ったので温めていたのです。ほら、昔から云うでしょう? 寒い時は人肌で温めなさいって」
「・・・・・・」
「二人いたから、一石二鳥でした。僕も温まりましたよ」
ありがとうございますと締めくくったライドウライドウの首に、雷堂は手をかけた。
なりゆきでライドウを組み敷いたかたちになったが、それどころではない。
「では何だ。貴様はゴウト殿のために睡眠中の我の身ぐるみを剥ぎ、自分も裸になった挙げ句、ゴウト殿を挟んで川の字で寝たということか!?」
声を荒げ、雷堂は口づけをせがむが如くライドウに詰め寄る。
その時、
「・・・・・・さすが十四代目。呑み込みが早いな」
気だるく起き上がったのは、今を時めくゴウトドウジ。
「ゴウト、おはようございます」
雷堂の下で、晴れやかに笑うライドウ。
ゴウトは前足で顔を拭う。
「昨日は、無理をさせたな」
「いいえ。あなたのためならこの身を捧げましょう」
「その心意気はいいが、無茶はし過ぎるなよ?」
「初代・・・・・・」
「その名は・・・・・・まぁ、今日くらいはいいか」
甘く寄り添い、二人は頬を擦り合わせる。
なんだこれは。朝から不埒な!
怒りに震える雷堂は無視され、会話は和やかに終了した。
するりと寝床から抜け出たゴウトは、扉の前で振り返った。
ふっ・・・・・・と笑い、流し目を寄越す。
「昨日はなかなかよかったぞ。二人とも」
「光栄です。初代」
「あぁ。今夜も頼むぞ」
艶やかに微笑み、ゴウトは扉を閉めた。
「・・・・・・」
呆然として上手く頭が働かない。
そういえば、影法師を見ると己は彼岸に近づくと云うのを思い出した。
「我は、死神を見たのか?」
疾うに覚悟していたことが、こんな淫らなことで再認識させられるとは。
しかし、立ち止まるわけにはいかない。
雷堂は、とりあえず目先のことから片付け始めた。
「・・・・・・貴様、なぜ布団にもぐりこむ」
「僕とあなたの仲でしょう? 固いことは抜きにしましょう」
「どこが固いのだ」
「ふふふ。それとも、本当に・・・・・・ぬきますか?」
ライドウの長い指が雷堂の腰骨を辿り、下を目指そうと蠢いた。
「出て行けー!!!」
探偵事務所に、幾度目かの怒号が響いた。
数刻後、ふて寝から起き上がった雷堂が服がないとライドウを追いかけ回したとか、風邪をひいて看病してもらったとか、近所で噂は飛び交った。
しかし新しい事件にまもなく掻き消え、今では異なる話題で町を賑わせている。
了
雷堂ver.のキリリクです! あぁもうひたすらアホですね、これ! 人様のツボを押せない私で申し訳ありません(涙)
リク内容の
「目覚めたら同衾(・・・)していた雷ライ。どちらが狼狽えるかは自由」は盛り込んだつもりですが、もう本当にすみません(土下座)
あれ? そういえばリク内容に「裸」はなかったんですねぇ。書いてから気づきました(笑)野望欲望妄想の雷ライ♪
一番おいしかったのはゴウトです。数々の台詞は、のりのりで書かせていただきました★ しょーだーいー!
素材がSSのイメージ映像に重なったので、それだけは満足です(笑)
白花に挟まれた以下略。
猛省します・・・・・・。
あ、あの返品いつでも受け付けますので。
本当に読了ありがとうございました!
2006.6.3
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