凄まじい剣圧に、ライドウは、はじき飛ばされた。
 だが、狼狽えることは露程ない。
 後退ざま、弱点である弾丸を撃ち込み、断末魔に聞き惚れる。
「葛葉ライドウの名において命ずる。我が前に従え」
 管を向けるとマグネタイトの輝きに包まれた敵、否、ライドウの新しい仲魔がニヤリと笑った。

「仰せの儘に」
 
 ふわりと外套を棚引かせ、ライドウは不意の静寂と灼熱を知る。
 がくっと跪き、ライドウは異常に気づいた。
 雷堂と同じ傷・・・・・・。
 慈しむように触れて、ライドウは吐息を漏らした。
 雷堂に触れているような陶酔感と、嗜虐感。
 血に酔うことのないライドウだったが、掌から零れる紅に、舌を伸ばした。
 ライドウから溢れたものだが、雷堂の匂いもする。
 下肢が熱くなるのは自然なことだった。
 
「治療しないのか?」
 ゴウトは、忌むでもなくライドウの傍に寄る。
 ゆっくりと振り向く視線の艶やかさは悪魔的でありながら清雅であり、ライドウらしいと思う。
 毒のある悦楽など嘘だったかのように、少年はあどけなく首を傾げる。
 ゴウトは、たらしの才能があるなと独りごちた。

「放っておくと痕が残るぞ」
「それもいいな」
「好きにするといい」
 ライドウは、少し考え、頭を振る。
「僕が、あの傷を嬲る楽しみが減ってしまう」
 十四代目は世に一人だけいればいいのと同じく、
あの引き攣れた肌も厭がる蒼灰の双眸も、二人といらない。
 撫でる掌は二つでも、この瞳は一人しか映せないから。
 ライドウは、うっとりと微笑む。
「ゴウトが舐めてくれるなら、このままにしておくけど」
「・・・・・・早く治せ」
 俺は元の方が好きだと呟く声に、ライドウは久しぶりに晴れやかに笑った。
 





 



                                          2006.7.20