「―――痛っ! この下手糞。もうちょっと手加減しろよ」
「無理を云うな。元はと云うと、お前がやれというから」
「お前、自分でやる時だけ上手いのな」
「我は、下手糞ではない」

 探偵は、むすっとしながらも,、再び裸身を助手に預けた。

「塗るぞ。少し痛むかもしれぬ」
 一々予告する雷堂に、鳴海は厭そうな顔をしたが、あえかな溜息一つで了承した。
「早く、しろよ」
「嗚呼」
 紅色の部分に、雷堂は薬を塗り込む。
 痛さと、愛撫するような優しい手つきに、鳴海はぞくぞくした。
「もう・・・・・・いいだろう?」
「いや、まだ下の方が残っている」
「ちっ」
 興奮を悟れぬように口内を噛むが、あまり効果はなかった。
 鳴海は、一度びくりと跳ねて、四肢を投げ出した。
「終わったぞ」
「・・・・・・」
 浅く息を吐く鳴海に、雷堂は常にない悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「貴様でも弱い部分はあるのだな」
「五月蠅いよ」
 定吉に負わされた怪我を治療し終えた雷堂は、甲斐甲斐しく濡れタオルも用意して顔を拭いてやる。
「軽く汗ばんでいるな。何なら身体も拭いてやろうか?」
 鳴海は、ソファからずり落ちた。
 


 気絶でもしたのか?
「・・・・・・仕方のない奴だ」
 雷堂は、立ち上がり鳴海を引っ張ろうとした。
 その時、鳴海が雷堂の靴を掴んだ。
 驚いて後退しようとした雷堂は、魔の手から逃れられたものの、するりと片方の靴を靴下ごと持っていかれてしまった。
 あまりに自然なその動きに、だから、鳴海が自分の白い足に近づき、恭しく持ち上げ、あまつさえ接吻けするのを止めることができなかった。
 舌が這い、視線が全身を嘗め、瞳が雷堂の揺らめく双眸を捕らえる。
 いや、囚われたのは理性か。
「雷堂」
 どくん、と心臓が跳ねた。

「ねぇ雷堂」

 鳴海の色にまみれた思惑が、一瞬にして雷堂の欲望を解き放つ。
 血管を這うように興奮が浸食していき、全身を巡る。
 こいつ、我の心臓を操る気か。
 もしくは、鳴海の心拍数を共有してしまったのか。
 身体が、波打ち、五月蠅い。

「しよっか?」

 視線すら鳴海から逸らせなくなり、雷堂は目眩を覚える。
 
 

 嗚呼、誰か、この心臓を止めてくれ。
 












 
                                     2006.7.30