「何事よ~ライドウ~?」
のほほんとした声に、ライドウは屋上から下を見た。
ひょいと窓から身を乗り出した所長と眼が合う。
「凄い声したけど」
「何でもないですよ」
ーーーぎにゃーーーーー!!!!
沈黙の青空に転がっていく、何者かの訴え。
「・・・・・・本当に大丈夫なの?」
「えぇ」
「本当に?」
箒を掲げて、にこりと微笑んだ。
「・・・・・・ならいいけど」
フランクリィに手を振って、ライドウは後ろを振り返った。
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隠しておく物。
刀。管数本。
必要な物。
箒。ちりとり。雑巾等々。
仕上げに、所長から頂いたエプロンというものを制服の上に着て、いざ清掃。
久しぶりの晴天なので、気合いを入れなければ。
雑巾を絞ろうと袖まくりをして、更に集中力を高めるために、転寝をしていたゴウトをエプロンのポケットに入れようとしたが、まんまと逃・・・・・・いや、非協力的な態度をとられた。
無念。
仕方ないので、窓を開け、隅々まで手を伸ばし、
たまに所長をはたいたり、イケナイ物を見つけてしまったりしながら、事を進めていった。
気になったらとことんまで。
勇ましく箒を持って屋上に続く階段を登る。
履き替えた下駄が、からころと陽気な音をたてる。
勢いよく、扉を開けて、現れた青空を吸い込んだ。
真っ白なビルヂングも、屋上は煤けている。
黒い粉を、さっさと掃きながら、ふと、慌てて箒を引っ込めた。
ごろんと、丸。
まん丸で、真っ黒な毛玉が転がっている。
ーーーゴウトだ。
竹箒の先っぽで、つついてみるが、鼻をぴくぴくさせるだけ。
起きていれば、なにかと理由をつけてライドウから距離を取りたがる彼が、何と無防備なことか。
・・・・・・ああ、いけない。いけないなぁ。
頬が緩んで、手足が、こそばゆくなってきた。
右足を下駄から抜く。
白く、完璧すぎる造形の足指でもって、ゴウトに触れた。
初めは毛先だけ。
足裏に吸い付くような感触に、どきどきした。
もう少し力を加えてみる。
水でも被ったのか、中の毛は、ちょっと湿っていた。
後少しだけ、と土踏まずまでゴウトの毛で満たし、皮膚を黒い海に沈ませると、何だかぐにぐにと妙な感触がした。
「・・・ふにゃあ?」
下から間抜けな声がした。
漸く起きたか、ごろんと見せた無防備な腹めがけて、指を小刻みに動かしてみた。
こしょこしょこしょ。
「うわわわわわやめんか!」
慌ててはい出すゴウト。
「おはようございます」
「え? あ、あぁ」
出鼻をくじかれたゴウトが、ぺろぺろと毛並みを舐める。
あ、そこは僕がさっき触れた・・・・・・。
咄嗟に躰が動いた。
「ちょっ、お前、変な趣味があるのか?」
足指をぐいぐいとゴウトの顔に押しつけ、ライドウは首を傾げた。
「何が?」
「舐めて欲しいのか?」
「キスして欲しい」
「変な奴だ」
爪先で喉を撫でれば、変態め、と罵られたので。
柔らかい口内に、ずぼっと突っ込んでやった。
2009.3.15
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