鳴海は今日も探偵社にいた。
最近は、ここにいることこそが命題のような気がする。
色っぽい夜歩きもしないではないが、最近は明らかにその回数も減っていた。
黒猫との掛け合いが、楽しくなってきたし。
助手に視線を向けられるのは、最早快感になりつつある。
「ねぇライドウ」
「はい」
「お前って、なーんでこんなにもち肌なの」
ソファで寛いでいた助手の頬を両手で包み、鳴海も隣に腰掛ける。
ライドウの膝の上で撫でられるに任せていたゴウトは、うっすらと眼を開けた。
「ライドウ。厭なら、はっきりと云え」
「なーにゴウトママったら、牽制のつもり?」
「お前が父親なら、ライドウは子供か?」
「・・・・・・すみませんでした」
「わかればいい」
「ライドウ、今度俺にもねこじゃらし、使わせてくれ」
こそこそとライドウに嘆願する鳴海の頭を、ゴウトは踏切地点にして窓の外に飛び出す。
「ったー! 手加減なしだね」
下心が傷ついたーと、鳴海はよろよろと横になる。
ライドウの膝の上に。
「あ、の」
「ん?」
「こういうのは女性にしてもらうものでは?」
鳴海は秘かに、佐竹の奴、余計なことを教えやがってと舌打ちする。
だがそこは、
「俺はいいの」
にこりと微笑めば、ライドウは沈黙する。
太腿にも髪を擦りつけ、鳴海は下から白皙の美貌を覗き込む。
確かに。鳴海は、女が好きだ。
男しか愛せない性癖でもなければ、熟女でなければならないわけでもない。
柔らかくていい匂いのする、あの心地よさがいいのだ。
温もりが欲しい時は、安息の地と云えるだろう。
ただ、鳴海は相手の口に己の物を咥えさせたことは一度もない。
潔癖なのではなく、叩き込まれた隠密意識のせいだ。喰い千切られて任務を遂行できなくなる恐れを意識的に、無意識的に回避しているのだ。
無我夢中でもがく渦の中で、溺れきれない習性。
獣にかけられた半端な鎖。
苦笑しながら、まぁ仕方ないと半ば諦観していた。
なのに、どういうわけかライドウの紅唇には、突っ込みたくてたまらない。気持ちは日に日に抑えられなくなり、未だに入れていない窄みよりも柔らかな唇が気になってしょうがない。
この一見、王子のような少年こそ、鳴海を破滅させる可能性が高いというのに、警戒心や恐怖心よりも、射精しながら喰われる倒錯的な快楽にまみれたいと思ってしまう。
ようするに、俺は・・・・・・。
鳴海は微笑んだ。
「あぁ、ライドウの太腿って気持ちいい」
「制服の上からわかりますか?」
「勿論。昨日は直接触れたし、ね」
沈黙は肯定ですよライドウ君。
「すべすべで、あったかいようなひんやりしているような」
頬を撫で、下睫毛を掠めると、少年の腿から振動が伝わった。
視線が合い、唐突に、気づいた。
俺、膝枕をしてもらうのはライドウじゃなきゃ厭だ。
ライドウも俺以外に膝枕を赦すのは厭だ。
細めた眼に、どんな情をたたえているのか、ここからしかよく見えないよ。
睫毛の震え、前髪の端っこ。
人形のような貌が、桃色に染まっていく様。
ここから見上げて見つける君の全てを、独り占めしたい。
いつか俺を含むかもしれない、淫らな二つの紅い三日月も。
「俺だけのものだから」
不意にゴウトの匂いがしたような気がして、鳴海は顔をしかめた。
愛を誓う代わりに、浮気は禁止ねと瞼を啄む。
目尻を嘗めると、吸い込まれそうに綺麗な瞳が頷いた。
もう一度、膝を枕に見つめ合う。
少年の唇を人差し指でなぞれば、白い手がそれに重なる。
共に撫でれば、ライドウが喰んだ。
呑み込まれる感覚に、下より感じるぜ、と滑る舌を掴んだ。
2006.7.30
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