〜憑涙雨〜



  ―――終電に振られた男は一つ舌打ちして、月夜の線路を歩き出す。


にやりと笑って、学生服の肩に手を置く。
           「俺が助手以外の飯を、ここで食べると思う?」

   「はぐらかす気か? 面白い奴と一緒に住んどるやないか」
     「嗚呼。女装させたいくらいだ」

「ドッペルゲンガー?」
「深追い無用です」

   「危うくなったら、引っ掻いてでも連れ戻してやるよ」
    「―――ゴウトにゃん、ちょっと顔赤いよ」

「先生と呼べ」
「は、はい。所・・・・・・鳴海先生」
「ん〜? 今、言い間違えただろう? きちんと言えるまで『お仕置き』しないとなぁ」

   「この傷はどうした!」
  「・・・・・・お帰りなさい」
   「は?」
   「お帰りなさい、と云いました。今夜は早かったのですね」

「偽者め」

   「ドッペルゲンガーじゃ・・・・・・ない?」

       「もうおわかりでしょう?」

「お前の正体は―――」


 ―――そして鳴海は、儀式に向かうように、階段を踏みしめる。



   できれば永遠に気づきたくはなかったのに・・・・・・。
   嗚呼、もうすぐ夜が明けてしまう。

「辛いことを忘れたら幸せになれるのかな」



        『影兎は銀の月を孕む。 憑涙雨』