例えば一部の隙もない対象に対して、二つの選択肢を設けるとする。
愛すか、壊すか。
鳴海は、壊したくなる。
例えば、雷堂に疵がなかったら、どうだろう。
犯すか、此の手で傷跡をつけてやりたい。
だが、そこまでだ。
自分に染まりきったものは、果てが見えている。見え過ぎている。
つまらないな。
その一言で、鳴海は、完成品を、ぽいと捨てるだろう。
完全な物よりも多少不完全な物の方がいい。
では、最初から疵のある雷堂はどうだろう。
顔に、躰に疵のある雷堂。
既に誰かの手で侵された其処には、違和感を覚えるが、食指は動かない。
舐めたいとは思うが。
喰いたいと思うのは、まだ土足で踏み荒らされていない、そのお綺麗な心。
傷つけ、紅い媚肉を露出させ、ぐりぐりと指で掻き回す。
それでも堕ちきらない、清廉な瞳が、そこにあれば。
恋を、するかもしれない。
「なーんてな」
荒く突いて、鳴海はくぐもった笑いを漏らす。
果てず、果てさせず、終焉の見えない快楽の海に溺れさせていた雷堂に、鳴海は囁いた。
「ねぇ。いい加減、俺の、出してやろうか」
「莫迦、が」
「触ってやってもいいぜ?」
「さっさと出せ。糞野郎」
「素直じゃねーな」
そこが、またいいんだけど。
口には出さず、耳にも舌を這わす。
自分本意のセックスをする鳴海を、雷堂の躰は受けとめる。
遊女のように紅い唇は、苦痛と拒絶に一文字に引き結ばれ、気まぐれのように性感をくすぐる鳴海の動きに、前は緩く反応している。
顔色は、透き通るような青になり、痛々しく器物めいている。
けれど後ろ手に縛られている姿は、嗜虐を待ち受ける、贄そのもので。
可愛いよ、と胸の飾りを摘んでやれば、背に、さっと朱が走った。
・・・・・・なるほどな。
鳴海は、完璧な白肌に過ぎった不完全に、ぼんやりと理解する。
左右非対称な顔の造作が、人間らしさというならば、雷堂の完璧な眉、眼、鼻、口、の配置は、人間らしくないということで。
人形のような冷たさに、精気を吹き込んだのは、疵、ということになり。
作り物は、擬人化を生み。
未完成なアンバランス。
そこに生と性を感じるのか。
そして、それを見た己に、愛着を湧かせ、捕らえるのか。
嗚呼、やっぱりお前は可愛い。そしてそれ故に、苛々する。
「なぁ、この疵、治せないの?」
思い通りにならないことへの、加虐的な怒り。
「治せよ。それとも、疵を遺すのが、お前の趣味?」
不確定要素を望み痛いほどの刺激が欲しくなる、自虐的な快楽。
「・・・・・・きついなぁ。もっと緩めろよ」
その狭間で、俺は、雷堂を愛し、貶める。
「・・・・・・っ」
今度は、雷堂が気持ちよくなるように動き、鳴海は甘く囁く。
「治せよ。できないなら、俺がその皮を剥いでやろうか」
根本を堰き止め、突き、喘がせ、悶えさせる。
「真っ赤な肉か、新しい肌か。用意できたら・・・・・・」
いかせてやってもいいぜ、と嘯く。
鳴海も、どこまでが自分の本意か、わからなくなっていた。
「俺だけが、お前に疵をつけるからな」
ドSでドMな鳴海さんが書きたかったのでーす! ただの変態さんになったけど!
刺青の趣味でもあるのか、この所長・・・・・・。
まぁ性欲の象徴とも言うし・・・・・・。
うーん、どこまでなら「ぬるい」エロなのだろう。
2006.10.29
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