「こどもぉ!?」
 鳴海の頓狂な声に、八咫烏の使者は一拍押し黙った。
「そうです。子供を預かって欲しいのです」
 次いで紅の引かれた唇から音が漏れると、黒いフードの後ろから、ひょいと小さな顔が出てきた。
 灰青の瞳。短く揃えられた黒髪。
 六、七歳と思われる子供。
 もう一度、使者が名前を呼ぶと、一つ頷いて鳴海の前に出てきた。

「なるみさん」
 甘い溜息のような、その抑揚。
 いつもより、やや甲高く舌足らずな甘い声。
「これから、また、お世話になります」
 礼をし挨拶をしても呆然としている鳴海に、その児は首を傾げた。
 歳にしては礼儀正しすぎ、美しすぎるその所作。
 子供は、あまりにも「彼」に似すぎていた。
「八咫ちゃん・・・・・・」
 確認の意味で、されど信じたくない一心で鳴海は云った。
 そして、使者は繰り返す。

「葛葉ライドウは、子供になりました」












「えっとさ・・・・・・」
 髪をくしゃくしゃと掻き混ぜて、鳴海は言葉を探す。
 
 探偵社に戻り、ソファに座ったまではいつも通りのこと。
 だが、向かい合った相手が違う。
 黒いマントを羽織り、帽子を頑なに脱がなかった書生は、
 通りを走る少年のような着物を着て、若干短くなった髪を惜しげもなく晒し、現に子供の身体で鳴海の瞳に映っている。
 貪り、抱きたい躰は、見守り抱きしめたい小さな身体に。
 愛欲は庇護欲に。
「どうして子供になったのかな?」
 口調まで変わる自分の心情の変化に、鳴海は少し戸惑った。
「他言無用でおねがいできますか」
「まぁね」
「ありがとうございます。しょちょお」
 内容の重みと、ライドウの口調の可笑しさの差異に、鳴海は噴き出した。
「なにか?」
「いやいやごめん。続けてくれる?」
 首を傾げる子供に、鳴海は微笑んだ。
 まずはこの児と、会話することから悩み始めようと。

 ライドウの話をまとめると、こうだ。
 近頃、子供が神隠しに遭う事件が多発していた。
 どれこれも黒髪の少年が、行方不明になり、そのまま帰らない。子供が消える時間は、逢魔が時であり、それだけなら同一犯の可能性もあったのだが、全国規模で発生していたため、偶然誘拐事件が重なっただけだろうと警察は考えたらしい。
 だが、奇妙なのは、いなくなった子供達を帝都の子供達が見た、という証言だった。
 彼らは、ふらりと現れ一緒に一通り遊んだ後、山の方へ帰って行ったというのだ。
 それを聞いたライドウは、自らも術で子供の姿になり、事件の解明にあたり、予想通り関与していた悪魔を見事討ち果たした。事件解決、と思われた矢先、断末魔の中、どうやってか呪を唱えた敵により、元の姿に戻れなくなったらしい。
 とはいえ、一過性のものであるらしく、直に戻るのでそのまま使命を続けさせるというのが、上の決定で、嬉しくもまた同棲生活ができるということだった。

「そりゃあご苦労だったねぇ」
「いえ、当然のことです」
「ライドウ」
「はい」
「これからのことなんだがな」
 
「今までのように、俺たちは、探偵と助手の関係だ。けどやっぱり、皆が皆、お前を「書生の」ライドウとは思わないだろうし、結びつけること自体無理がある。だから、これからは、外でだけお前を、親戚の子供として紹介したいと思うんだが」
「異存はありません」
「・・・・・・」
「他に、何か?」
「いや、折角からだが小さくなったんだからさ、なんか楽しめることはないかなぁって」
「・・・・・・」
 きょとんとした貌は、年相応のもので。
 けれど、みるみる呆れた表情になりほんのり頬を染める様子は、ライドウのままで。
 同じライドウなのに、無性にあの書生に逢いたくなった。
「そうだ!」
 にんまり笑って、鳴海は子供の横に座った。
「パパって呼んでご覧」
「・・・・・・ぱぱ?」
「そう! 今日からお前は、鳴海ライドウだよv」
「お断りします」
「反抗期!」
 嘆くふりをして、鳴海は児ライドウを抱きしめた。
 幸せいっぱいの家族のような貌で。
「次、云ったらお尻ペンペンだからね!」
 頭の片隅で、早く元の姿に戻って、と願いながら。








 子供が「あの」ライドウだということは、頭では理解していた。
 艶やかな黒髪、無垢な白肌、視る者を捕らえてやまない不可思議な双眸。
 やや舌足らずな口調と、視線の低さに時折狼狽えることはあったが、宿る精神は十四代目のもので、同じ年頃の子供を見る度に、ライドウの異質さ、淫靡さに、改めて戦慄と愉悦を感じた。
 
 一日、二日、一週間と立つ内に、その肌に肉欲を感じなかったわけではない。
 嗅ぎ慣れた匂いに加え、子供特有の柔らかい触り心地に、理性がぐらついたのは数え切れない。何よりライドウは、俺との淫欲の日々を覚えている。
 同じ寝具にくるまり、お休みを告げる唇が、濡れているような気がするのは気のせいなのか。
 痘痕も笑窪というが、俺の場合はライドウなら何でもいいのだろうか。
 情欲に関しては、完全否定はできないと思う反面、残り少ない道徳観念が待ったをかける。
 餓鬼相手に、勃起する自分は何者だと。
 互いに了解済みで事を行ったとしても、それではただの処理であり、鳴海の獣を子供の身体が受けとめきれないであろう、と。
 主要な精神は書生のライドウで、それを内包する器は幼すぎる少年のそれ。
 
 つぶらな瞳が無邪気に微笑む度に、保護欲と仄暗い肉欲に苛まれ、鳴海は、ライドウとどう接したらいいのか迷っていた。
 
 不安定な自己を誤魔化すために、当人の前では親馬鹿を続けることにし、独りになれば、白い欲をぼんやりと眺めることで日々を過ごしていった。





 近所の人には親戚の子供だと説明したが、子供が何かの折に「パパ」と云ったのを囃し立てた大家のお陰で、ライドウは鳴海の(義理の)子という噂が筑土町に広まってしまった。
 
 本当の親子にしては、不意に甘すぎる雰囲気を持つ。
 親戚というには互いに遠慮と余所余所しさがなく、呼吸が合いすぎて、淫猥な間柄を思わせる。
 だが、どういっても大人と子供。
 恋人にしても不釣り合いで、矢張り「パパ」と「子供」もしくは「稚児」のようだと隣人達は認識していった。
 当人達も、次第に外出先でも「パパ」「ライドウ」と呼び合った。








「うっわー寒!」
 慌てて探偵社に駆け込んで、更に鳴海はタオルを探しに洗面所へ走る。
 目当てのものを手に入れ、玄関で待つように云っていたライドウへ駆け寄り、身体ごとすっぽり覆ってやり、拭いてやる。
 突っ立ったままのびしょ濡れの子供に、風邪を引かせないようにしないとな、と思った。
「ライドウ、おいで」
「はい、パパ」
 湯を張ったバスタブに、無造作に服を脱いだライドウが、入ろうとする。
「掛け湯をしなさい」
「はーい」
 その手には大きい桶で、背伸びして湯を掬う様は、完璧に子供の仕草だ。
 むっちりした双球に、目がいきがちな自分を叱咤して、鳴海は風呂から出ようとした。

「パパも一緒に入って」

 無防備な裸身。無垢な瞳が、見つめてきた。
 互いの冷えた身体が、沈黙に震えだしたところで、鳴海は扉を内から閉めた。



 ライドウの白い背を見つめながら、鳴海は、ぐらつく自制心と必死に戦っていた。
 今の自分は、父親の役割をしている。
 ままごとのように親子を演じることで、ぎりぎりの理性を保っていたのだが、二週間を過ぎる禁欲生活に、そろそろ限界が近づいていた。
 無理矢理犯したくはないが、肌を合わせたい。
 愚かしいこととわかりながら、ライドウの全てに自分の雄が反応しそうになる。
 欲目で見てしまう。
 さっきだって、ライドウが寒さに震えていたのはわかるが、懇願する丸い瞳は、必要以上に濡れてはいなかったか。
 誘うように、いやらしく身体をくねらせたのではなかっただろうか。
 俺が子供に手を出せない、否、出さないようにしているのを小馬鹿にしているかのように。

 糞。俺は馬鹿か。ただの被害妄想だ。獣の欲に人間らしい言い訳をこしらえているだけだ。
 わかっている。わかっているんだ、が。
 
 鳴海は熱を誤魔化すように、荒くライドウを洗う。
 乱暴な扱いに、それでも子供は身を任せている。
 この状況が、もし「あの」ライドウならば・・・・・・。
 一瞬よぎった、しなやかな手足を、鳴海は無理矢理打ち消した。
「ライドウ、流すぞ~」
「はい」
 ざばーっと擬音語を云いながら、湯を滝のように浴びせる。
「後は自分で洗えよ」
 背を向けた鳴海は、石鹸を泡立て始めた。
 さっさと洗って、出てしまおう。そうしなければ・・・・・・。
「パパ」
 振り返ってはならない。
「何だ」
「パパ」
「だから・・・・・・っ!」
 声を荒げた鳴海の太腿に、小さな掌が置かれた。
 不覚にも、どきりと心臓が跳ねる。
 躰こそ擦りつけてこなかったが、艶めく白が覗き込むようにして躰をくねらせ、こちらの視界に入ってくる。

「ねぇ、パパ」
 
 舌っ足らずな、声が。
 児の匂い、が。
 止めろ、と警告する理性に、甘く覆い被さり浸食し・・・・・・。

 ・・・・・・パパ、僕を洗って。

 その一言が。
 眼を、手を、白い肌へ惹き寄せ、獣を解き放った。
 理性で引き結ばれていた唇に、意地の悪い笑みが浮かぶ。

「仕方ないな。パパが洗ってあげるよ」





 鳴海は、ライドウを後ろ向きに座らせた。
 勿論というか、自分の太腿に座らせている。
 石鹸を泡立てた両の掌は、そのまま白い襟足に。
 初めは、泡で肌を愛撫するように掠めるように動かす。
 泡が流れていくと、揉みしだくように擦る。

 紅い二つの尖りを泡でなぞると、鳴海は我慢しきれず、きゅっと摘んだ。
「・・・・・・パパ?」
「ん? 何だいライドウ」
「・・・・・・いえ、何でもありません」
「そうか」
 真面目腐った大人の声に、ライドウは俯く。
 ゆるゆると円を描く指に、その後もびくびくと躰を震わせたが、文句一つ漏らさなかった。
 鳴海には、それが面白くもあり、苛立たしくもあった。
 「あの」ライドウのような反応をし、けれど「あの」ライドウとは違う児。
 ・・・・・・誘ったのは、お前だからな。
 片手は、その遊戯を続け、空いた手で脇腹を辿り、下部の頂きはわざと無視して桜桃の笑窪を撫でてみたりする。
 きゅっと締まる尻が楽しくて、何度もそこをつついてやる。
 はぁ、と艶やかな溜息が聞こえた。
「ライドウ、風邪?」
「いえ、」
「まさか感じてるんじゃないだろうね」
「いいえ!」
「そう。それならいいんだよ」
 わざと太腿を動かし、ライドウの敏感な部分を刺激する。
 背をしならせる子供に、意地悪く告げた。
「身体を洗うだけで感じるような淫乱な児は、家の児じゃない」
 真逆の本心を告げてやれば、唇を噛みしめる気配がした。
 鳴海は、唇の端を吊り上げた。
 そうだ、そうやってもっと抵抗すればいい。
 愉しみは、長く続けられるにこしたことはないからな。
 この二週間、俺が耐えてきた分、たっぷりと味合わせてくれよ?
 お前も、きっと癖になる。
 むしろ、こうなることを望んでいたんだろう?

 もじもじと太腿を擦り合わせる子供に、生唾を呑んで、鳴海は愛撫を再開する。
 だが、そこまで。
 鳴海は、喘ぎ我慢できないと啼く児を、絶対にいかせてやらなかった。
「もう寝る時間だからな」
「・・・・・・っ、・・・・・・ぱぱぁ」
「駄目だよライドウ。折角洗ったんだから、汚しちゃ駄目だ」
 鳴海は、ライドウの未成熟な部分を覗き見て、微笑した。
「可愛いな」
 泡のかかった、しかし一度も触れなかった部分を、くい、と持ち上げてやる。
「もっ・・・・・・おねがい、ですから」
「泣かないでよ、ライドウ」

 髪を梳き、鳴海は耳朶に接吻け
「もっと虐めたくなるから」
 悲鳴。いや、悲鳴にもならなかった。
 鳴海がライドウの悲鳴ごと舌を絡ませ、呑み込んだ唾液ごと愉悦へと変えたからだ。
 悲鳴が嗚咽に、そして喘ぎに。
 小さな唇は、ぬらぬらと光る。
 
 そうか、と鳴海は理解した。
 今までは、書生の頃のライドウに逢いたくてたまらなかったが、何のことはない。
 結局、躰が変わろうとも、鳴海に反応するこの児は、あのライドウのもので。
 制約はあるものの、書生には書生の、子供には子供のよさがあるのだから、俺はそれを美味しく頂いて舌鼓を打てばいいのだ。
 いつになったら、あのライドウに戻るかはわからないが、このライドウと、まだ愉しみきれていないのだから、気長に待つとしよう。
 今日が終わるのを名残惜しんで、明日に少し不安を抱きながら、それでもどきどきしながら、この児とあの子を同時に愛そう。

「そういえば、お前、その躰だと、射精出来ないんだよな」
 偶然、それを知っていた鳴海は、今この瞬間に言葉で追い詰める。
 青ざめ、そして紅くなった子供に、もう我慢するのは止めだ、と決める。
「もしかしたら、今日が初めての射精になるかもしれないからな。ベッドまで、ここを結んであげるよ」
 掛けてあった手拭いを、鳴海はライドウのそこに括り、堰き止める。
 躰を拭いてやり、この時も悪戯は欠かさなかったが、着替えさせ、寝室まで歩かせた。

 親子のように、手を繋ぐのはとても楽しい。
 恋人同士のように、この後を想像するのは尚愉しい。
 泣きながら、先から垂れる雫を必死に床に零さないように内股で歩く少年は、可愛くて虐めたくなる。
 床を汚したら、舐めて掃除しろよ、と云ったのだが。
 どうせ這い蹲るなら、首輪でもつけたいものだ。
 今日は無理だが、明日にでも金王屋の爺に頼もうか。
 鞭と特注の蝋燭も。
 お揃いの手錠を買ってもいい。
 俺の右手に子供の左手を。子供の右手に俺の左手を繋いで。
 云うことを聞かない時は、俺の片手と小さな足首をくっつけよう。
 嗚呼、そういえば捕虜を繋ぐ時もそうするんだったっけ。
 同じなのは可愛そうだから、お前はペットでもないから、一緒に考えながら悦しもうな。
 お前の初めてと、初めての白濁をも。
 姿形が子供でも、大人になっても、俺はお前を愛しているから。












 一ヶ月後、ライドウは元の十七歳の身体に戻った。
 相変わらず俺は、のんびり探偵稼業をして、少年は帝都を駆けている。
 端から見れば、幼子との生活など二人の間にはなかったことのように見えるだろう。
 だが、そうじゃない。
 いまでも、たまに、そう・・・・・・月の番狂わせによって俺達は、変化する。
 内に隠った秘事を愉しむために。

「おいで、ライドウ」
「はい、パパ」

 じゃらっと、銀の鎖が鳴る。


 手に手を取る愛欲の日々は、始まったばかりだ。
















 ギリギリだ。まじでギリギリだ、むしろアウトだ。
 書いている途中の梶浦の心境です。毎度のことです。どうも。
 まずは読んで下さった貴方様、食傷気味になられませんでしたか。
 大丈夫ですか? 苦手な方は、本当にすみませんでした。
 そして、「子ライ」に誘って、いや誘ったのは私か? とりあえず協賛して下さった江支さん、締め切り過ぎるは、中身がXXXだは申し訳ありません! ありがちネター!
 ぐう、リアルでの未成年へのアレは反対ですが、あくまでもこれは虚構なので、ご理解いただければ幸いです(汗)
 おっかしいな、SMのはずが、うっかり変態日記になってしまいました。
 ははは、これ以上書くと無駄に長く流石に胸焼けするかなぁと思ったんですが、削ったエピソードとして、子供に色々仕込むエロぱぱとか、それからというものお風呂は二人で入るとか、えろいものがありました。
 微笑ましいものとしては、親子(?)で料理とか小●少年の如く一緒に探偵稼業をしてもいいなぁなんて、なんて・・・・・・駄目?
 全てのエピソードを入れたら、ページ数が過去最多になるのでは?
 つーかテーマが「お揃い~鳴海さんはS~子ライドウ編」だったんですけど、見事にちらりとしかいかされていませんね。本当に、すっみません! 
 それでも読んで下さり、本当にありがとうございました!

                                        2006.10.09