・・・・・・とうとうここまで来たな。
 頭に響いた不敵な声に、ライドウは双眸を開いた。
 

 丑込め返り橋で数多の赫い手に飲み込まれた、その先。
 目前に広がるのは、幾何学と時間律の捻れた異空間。
 アラカナ回廊。
 過去も未来も、ここでは全て「今」として存在していると聞く。
 歴史の上書きができる、唯一の場所。

 
 ライドウは僅かに震える拳を握り、目付の名前を呼んでみるが、返事はなかった。
 ・・・・・・きっと、どこかで見守ってくれている。
 逢えぬ瞳を思い浮かべると、いつのまにか震えは消えていた。


「お前ならここまで追ってくると思っていた・・・・・・」
 代わりに空間を揺るがしたのは、伽耶に憑きし者。
 傲岸な口調に、ライドウは得物に触れる。
 殺気に臆する要素は、ない。
「・・・・・・お前の覚悟、見せてもらうとしよう」
 すっと気配が消えると、ライドウは仲魔を呼び、刀を構えた。
 濃密な魔の気配が、すぐ傍まで近づいていた。


 
 



 三体のトールが足を踏みならし、一斉に大鎚を振り下ろす。
 ライドウは高く跳躍することで猛攻を交わし、宙で回転ざま氷結弾を打ち込む。
 たまらず硬直する悪魔を尻目に、
「ジークフリード」
「・・・・・・承知」
 マハ・ザンダインで、トールに致命傷を負わせる。
 その間にライドウは、蹌踉けている他の悪魔を葬った。

 ・・・・・・これで残すは、トールのみ。

 地に降りようとして、ライドウは目を見開いた。
 トールの巨躯が死角になっていたのか・・・・・・?
 着地地点にスサノオが待ち受けていたのだ。
 浅黒い腕が得物をライドウに投げる。辛うじて打ち払ったが、バランスを崩し、
「・・・・・・!?」
 その背に容赦無くリリスのムドが打ち込まれた。
 ライドウは、堪らず地を這う。
 貫く激痛と痺れにライドウは立ち上がれない。

 なぜ、悪魔が気配無く現れる!?

 真っ赤に染まる視界で愕然とした。
 それでも床を転がり態勢を整えたライドウは、刀を繰り出す。
 陰陽葛葉。
 万感の想いが込められた美しくも、全てを斬り裂く妖刀。
 スサノオの一撃を受け止め、ライドウは歯を食いしばる。両者一歩も引かず、互いの武器が激しく鳴る。
 仲魔も慣れた動きで悪魔達を牽制し、少しずつライドウが押し返していく。

 勝利を確信したライドウに、なぜかスサノオがニヤリと笑った。
 気をとられたライドウは、突然現れた新しい殺気に反応が遅れる。

 ・・・・・・またか!

 ライドウは何とか刀を合わせたまま動き、二体の敵を正面から見据える。
 フツヌシの刀が回転し、ライドウの刀を全方位から破砕しようとしてくる。
 ・・・・・・無駄なことを。
 慌てることもなく受け止め、捌こうとしたライドウは、不意の閃光に眼を焼かれる。
 その一瞬が命取りとなった。
 今度こそライドウは悲鳴を上げる。

 最強の刀に、亀裂が―――!

 そこへ見たこともない黄金の衝撃波が打ち込まれ、刀身の真ん中が砕け散った。
 半分になった刀ごとライドウは地に叩きつけられた。
 悪魔達が仲魔に掌を向ける。
「ジークフリード! 戻れ!」
 管に帰還させるだけで精一杯だった。
 一斉に悪魔達がライドウの方へ振り返る。
 トールの雷が、リリスの呪いが、スサノオの鷹円弾が、嘘のようにゆっくりと向かってくる。
 ライドウは、力の入らない指で陰陽葛葉の残骸を握る。
 そこまでが限界だった。
 防御は、間に合わない。


「・・・・・・ー―――様」



 その時、どくん、と刀が波打ったような気がした。
 
 すると、ライドウの声に呼応するように、抜き身の刀が手を離れ、浮かび上がった。
 ライドウを庇うかのように。

 そして怒濤の如く打ち込まれる攻撃に、自ら盾となり、至近距離まで近づいてきた悪魔ごと

・・・・・・爆発した。


 ライドウは信じられないように、その最期を見つめた。
 みるみるうちに粉々になり、欠片がライドウに降り注ぐ。
 淡い翡翠の輝きを纏って。
 哀しくも優しく。
 あまりに儚い。
 嗚呼、どうしていつも自分以外のものが死に逝くのか。
 嗚呼、どうして今、あの空での虚しさと悔恨が・・・・・・。
 助けられない、護れない。
 あの時も、今も、あの翠玉を・・・・・・!



 ライドウが獣のように吠えた。



 次々と現れる悪魔を前に、ライドウはゆらりと立ち上がる。
 満ち溢れる破壊衝動に意識を混濁させることが、こんなにも愉快だとは。
 薄く笑い、ライドウは極めて冷静に狂っていることを自覚しながら、突っ込んでいく。
 




 使命
 帝都守護
 十四代目
 守るべきもの


 手に入れる度、見失い、増えていくものは何だったのか・・・・・・。
 








 最後の弾を撃ち尽くし、ライドウは、とうとう凶手にかかる。

 消えゆく意識の中、誰かに囁かれた気がした。




















弐へ



 
 予告していた長編をお届けします。
 自分で書いておいて何ですが、ナニコレ? 漫画みたいな展開(オイ)
 記念すべき壱話目は、ライ様ご乱心でしたv(微妙)
 しっかしこの後、話が進めば進むほど大・大・大捏造と妄想が繰り広げられますので、苦手な方はお気を付け下さい。
 とりあえず、人間ver.のあの御方が登場するとだけお伝えしておきましょう(ニヤリ)
 むしろあの御方の為の長編ですがね!
 
 刀から溢れた翠の輝きはなんだったのか!?(ばらしてるようなもんだな)
 ライドウちゃんは、ぐれずに帝都を守護できるのか!?
 
 そこはかとなく、まったりと次回をお楽しみに♪

 ・・・・・・この題名変えたいなぁ・・・・・・。
                                          2006.7.05