「嗚呼ー!」
滅多に聞かないライドウの悲鳴に、雷堂は、噎せた。
最後の一口を、味わって食べられなかった。
むっとして、雷堂は声の主を見る。
「・・・・・・どうした。十四代目よ」
「貴方ですか!?」
「は」
「僕が残していた焼き芋を食べたのはー!」
目尻に泪さえ浮かべて、ライドウは叫ぶ。
雷堂は、狼狽えながら詰め寄る十四代目に待ったをかける。
「いや、芋を残していたのは我だぞ」
昨日学校の帰りにたくさん買った残りを、雷堂は住人に釘までさして取っておいたのだ。
その時、一緒に買い求めたライドウは、全て食べていたような気がしたのだが。
「僕もきちんと取っておきました!」
「我も戸棚にしまっておいたのだ」
「貴方が食べたのか!」
「我の物だと云っているだろう!」
「糞。我の物を食べるとは! そこに直れ、斬り捨てる!」
貴様の一人称は「我」じゃない。
「我を語るとは笑止! むしろ貴様が我の物を食べたのではないか!? 何だか残りの芋は少なかったしな! 白状しろ! お前は自分の物と我の分を食べたのであろう!?」
「僕と貴方は同じ者。だから貴方の分を僕が食べるのは当然の権利!」
「阿呆が!」
「だが!」
ライドウが、くわっと眼を開く。
「僕の目の前で、貴方一人が甘い物を食べるのは我慢ならない!」
「だからこれは我の・・・・・・!」
「言い訳無用!」
芋の敵ー! とライドウが斬りかかってくる。
雷堂は一瞬で興奮を冷まし、鍔に手をやったが、ふと思い留まり、一歩踏み込むことで刃を避ける。
そのまま身体を捻り、唇を奪った。
一秒。
二秒。
・・・・・・何秒たっただろうか。
葛葉刀が鞘に戻る音がして、次いで水音も止む。
殺気などどこへやら、ライドウは蜜のように蕩ける笑みを浮かべる。
「やっぱり焼き芋は美味しいですね」
今度はライドウから重ねて、甘みを楽しむ。
「そろそろ焼き芋屋が通りかかる頃だ。買いに行くか?」
「えぇ。そうしましょう」
ライドウは機嫌よく頷き、好きですよと囁く。
雷堂は、ほっとしたが
「でも、僕の分は多めでお願いしますね」
扉に向かう十四代目に、濡れた唇で、そっと溜息を吐いた。
好きと云われるより、こっちの方が甘い。
2006.7.30
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