ーーー消えた。
滅多にないことだが、ライドウは唖然とした。
悠々と歩き、扉に「吸い込まれるようにして消えた」青年を見て。
「ライドウ!」
「はいっ!」
一息でミルクホールまで詰め、中に飛び込んだ。

「・・・・・・いらっしゃいませ」
軽く会釈して、目はたった一人を追う。
ーーーいた。
かつかつと靴を鳴らし、傍に陣取った。
酷薄な蒼い眼と、冷たい金の髪。
接吻けもせず、グラスを玩ぶように愛撫する青年に、ライドウはすぅっと目を細めた。
「貴方、何者です?」
「……君とは『初めまして』、ではなかったね」
「デビルサマナーなのですか?」
「何故?」
「ドアーを開けずに、入ったでしょう?」
ちらりとミルクホールの入り口を見遣る。
普通の人間には、そのような芸当はできない。
デビルサマナーか、何かの術にたけた者か。
あるいは人外のものか。

蒼い瞳に、からり、と手元の氷が回る。

「全ての事象には理由がある。君が私を見たのも、何かの『きっかけ』なのだろう」
「貴方を追いかけたのも、『きっかけ』にすぎないというのですか」
「仮にそれが世界を変動させるものだとしても、君の行動に正解も誤りもない」
「・・・・・・それならば」
青年からグラスを奪い、代わりに自分が近づく。
しなだれかかるように、青年に寄りかかる。
白い指を彼の胸に、そっと当てて。

「今、貴方をこうしても、よいということですか」
「それが君の選択肢か」
突きつけた銃はそのままに、耳元で囁いた。
「そうです。僕は、貴方を」
「無理だよ」
「・・・・・・何故」
「君が本気ではないからだ」
ようやく視線が合う。
氷の瞳は、揺るがない。とけない。
「貴方、は」
ぐっと、鉄の唇を押しつける。

「この事件の黒幕なのですか」

ライドウの声を反射して、氷山の奥底が、ちかりと明滅する。
金の睫毛が少し震え、手袋で口元を覆ったと思うと、「失礼」と少しだけ沈黙した。
「いや、面白いね、君は」
笑っているらしかった。
背中を、ざわりと撫でられたような気がした。
「答えを探すのは私ではなく君の役目だろう、ライドウ君」
どけてくれないか、と視線が促してくる。
動く気配の相手に渋々、懐に収めたが、緊張はまだ解かない。
いや、解けない。
直接、銃を向けられたわけではない。
悪意を向けられたわけでもない。
だが、青年の醸し出す、得体のしれない「何か」がライドウを固くさせるのだ。
まるで初めて恋を知った時のように。


「楽しみにしているよ」
優雅な仕草で、鞄を持つ。
「君が、希望を失わないように祈ろう」
「・・・・・・これは?」
「楽しませて貰った、お礼だ」
「・・・」
「追い求めるものが、手に入るといいね」

重たい扉が閉じられる。

後に残ったのは、一口も呑まれなかった青年のグラスと。

差し出された、一杯の。

「マスター」
「はい」
「これは、何という飲み物ですか」
「嗚呼、それはカクテルの」

ーーーマルガリータ。

「恋人の名前らしいですよ」
「・・・」
「創った方の、ね」
含みを持った云い方に、何故か胸がざわめく。

恋人、恋、焦がれる。
何に?
誰に?

あの、瞳に・・・・・・。

「・・・・・・」
「召し上がりませんか」
「悪酔いしましたので」

少し俯いて、立ち上がったが、ふと思い立って表面を舐めてみた。

「・・・・・・好きな、味です」

一気に飲み干して、グラスを置いた。
「・・・・・・御馳走様で」
す。と言いかけて、舌がぐにゃりと歪んだ。
踏ん張ろうとした脚が、世界と一緒に地平線を失う。
黒猫の声が降り注いできたが、泡となった意識は、易々と弾けてしまった。






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未成年ですよ書生さん!
金髪の青年xライドウです。
むしろXっていうよりVSって感じですな!
イマイチ金髪さんの口調を覚えていないので、探り探りで書いてます。<見え見えダネ!

そもそもこのCP書こうと思って、アバ王プレイメモを見直したのはいいんですが、

金髪にーちゃん 店内に消えた!
普通にいやがる・・・・・・


この弐行で、何を書けと!?(大泣き)<妄想しろYO☆
ってことで、ミルクホールに吸い込まれるようにして消えた青年へのツッコミと。
「この人ぼこったらアバ王、完結するんじゃね?」
という思いから、書いたのでした! あの弐行から、頑張った!
しかし萌えが足りない感じなので、次回はもうちょっと頑張って貰おう。




                                 2008.12.16