蜜柑 垣
ご近所から大量の蜜柑を頂いた。
橙色の山となって探偵社のテーブルを占拠している。
「う~~、蜜柑・・・」
「鳴海さん、蜜柑がお嫌いですか?」
そう思ったのは、蜜柑を見つめてあんまり険しい顔をしているし、まだ一つも食べていないからだ。
「ううん、好きだよ」
「でしたら、お一つ食べませんか?」
一つと言わずに何個でも食べて頂いても構いませんよ。
僕だけでは食べ切れませんし、腐らせてしまうのも勿体無いのですから。
「うん、食べたいんだよ。すごーくね。でもなあ・・・」
「なんです?」
「皮を剥くのが面倒なの」
・・・・・・。物臭な人だと知ってはいたけれど、まさかここまでとは。
「蜜柑が食べたあい。でも剥くのは面倒~~。ってさっきからずうっと悩んでるんだよねえ」
悩んでいる間に剥いてしまえば、全て解決すると思うのですけど。
「仕方ないですねえ。僕が・・・」
待て。ここで剥いてしまったら、鳴海さんの為にならない気がする。
せめてこのくらいは、ご自分でやられても良いはずだ。
たまには少し厳しくするべきかもしれない。
ゴウトにも、「甘やかし過ぎだ」って怒られてばかりだしな。
よし決めた。今日はほんの少しだけ、鳴海さん困らせてみよう。
「・・・僕が蜜柑を剥いたら、鳴海さんを剥かせて下さいますか?」
「いいよ、別に」
「え」
しまった。鳴海さんに、こういうのは効かないのか・・・。
「で、剥くって、何をどこまで?」
「え!?」
「具体的に言ってくれないと分かんないもん」
嘘ですね。だって顔が笑ってます。本当は充分に理解しているのでしょう?
これはもしや。気付けば困っているのは僕の方・・・?
い、いいや。今日は負けてたまるものですか。
「行為が出来るくらい剥かせて頂ければ構いません」
「うわー、ライドウちゃんてば大胆だねえ。ふうん、脱ぎかけのが興奮するんだ。覚えておこっと。俺はねえ、自分だけ素っ裸にされると、すげえ恥ずかしい」
「そっ!そんなことは言ってないでしょう!」
どうして蜜柑からそういう話に・・・そりゃ、先に振ったのは僕ですけど・・・。
ああもう。この人に口で勝とうとしたのが間違いだった。
「なあに?怖い顔して。え、ちょ、ま、待てって!」
鳴海さんの服に手をかけて、僕は無言でボタンを外していく。
こうなったら、綺麗に剥かせて頂きます。全てね。
「・・・なあ、蜜柑はー?」
「後です。僕、順番については言ってませんでしたよ?」
「あらま。ライドウも言うようになっちゃって。おじさん、さみしいなー。でも積極低で強気なお前も良いなあ。まあ、どんなだって魅力的なんだけどねえー」
なんとでも言ってて下さい。言いたいことを言えるのも今のうちです。
すぐにその達者な口、塞いで差し上げますからね。
2008.5.08
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