はらりはらり。
幻惑するかのように舞う。
誘い絡め取るかのように近寄る。
戯れに、若しくは愛しい心を隠すように翻る。
風に舞う紅葉を、斬った。
木枯らしの如き断末魔が、雷堂の髪を揺らす。
静寂の後、散る紅は緑になった。
否、緑色に戻った。
葉の紅は、そこに宿っていた悪魔の色であり、地に墜ち或いは散る筈のない青紅葉だけが残される。
はらり。
最後の葉が地に接すると同時に、雷堂も刀を納めた。
地を覆う緑。鮮烈で、穢れを知らぬ筈だった色彩。
苦くて、苦しくて、目眩がする。
雷堂は、その上に横たわり、眼を閉じた。
穏やかな脈が、滾滾と湧き出る清水のように、全身を満たしていく。
マグネタイトが体中に満ちれば、このような気持ちになるのだろうか。
このまま眠りたいような安心感と、清すぎる気配に物足りなさを感じる。
心が洗われる代わりに、温もりも冷めていく。
安寧に何故か苛立ち、抗いたくなって、呟いてみる。
呟こうとして止め、唇で形だけ作る。
ら い ど う
・・・・・・えも言われぬ衝動に、吐息が漏れた。
下穿きに、そろりと手を忍ばせ、指を絡める。
すぐに熱くなって、唇を舐め、片膝を立てた。
こんなところで非常識だと諫める己がいれば、ただの排泄行為だと冷笑する己もいる。
眉を寄せ、歯を食いしばれば、羞恥と獣心が駄々をこね、舌を伸ばせば、誰の舌と絡めたいのか茫漠として理性が喘ぐ。
緩やかに高まった青臭い欲を出し、雷堂は四肢を投げ出した。
嗚呼、何と愚かな。
注ぐ場所を失った白濁を眺め、その手でぴしゃりと顔を覆った。
青紅葉など、今すぐ枯れ墜ちてしまえ。
我のこの気持ちと共に。
それが不可能ならば、狂おしい程の緑で我が身を満たしてくれ。
若しくは使命に不必要な恋慕を、籠の中に閉じこめてくれ。
そうでなければ、独りでは、情を、どうしようもできない。
・・・・・・初代よ、十四代目よ。
新たに舞い落ちてきた葉を、掴まえ、粘りを擦り付けた。
2006.10.7
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