何か物寂しくなり、煙草に手を伸ばした。
「鳴海さん」
 その手に、少し呆れたような声が被さる。
「今日は禁煙すると云っていませんでしたか」
「え? そうだっけ」
「俺も聴いたが」
 灰と翠の眼に見つめられて、鳴海はへらりと笑う。
「二人して何々? 嫁さんと舅みたいな事云っちゃって」
「嫁・・・・・・」
「舅・・・・・・」

「突っ込みが入れられないのは、自覚症状ありかな?」
「と、兎も角、煙草は没収です!」
 珍しく慌てたライドウが、魅惑の棒達を隠す。
 ゴウトは半ば呆れながらも綺麗に跳躍し、鳴海の手からライターを没収した。
「くっ・・・・・・親子パワーめ」
「これに懲りたら大人しく情報収集でもすることだ」
 頷くライドウに鳴海は少し嫉妬して、それを悟られないようにニヤリと笑った。

『あっ・・・・・・!』
 
 二人が驚くのも無理はない。
 手品のように、鳴海の掌に煙草が現れたのだ。


 たった一本。
 されど一本。


 鳴海は、掌で白皙の姫を包み、火をつける。

「お前、いつか身を滅ぼすぞ」
「ふぅん。一緒に堕ちてみる?」
 ライドウの手を取ると、猫に引っ掻かれた。
 当の少年は、鳴海が旨そうに咥えるものを見ている。

「憎い?」
「・・・・・・」
「好き?」

 ライドウは応えなかった。
 代わりに鳴海が「俺は両方かな」と云うと、「一つにできないんですか」と真っ直ぐな瞳で見つめてきた。





 相手を恨み続けることと、愛し続けること。
 どちらが長続きして、早く人を滅ぼすだろうか。
 

 緩く紫煙を立ち上らせながら、今日は格別に苦く、美味いなと思った。



 
                                     2006.7.12