不意の突風に、髪の毛が、ふわと舞った。
 袖口に滑り込む冷気に、肩を竦める。
 前の季節は、既に鳴海の元から離れていったようだった。
 連れないねぇ。
 人差し指で帽子を回しながら、細く息を吐いてみる。
 こんな日は、誰かにあたためて欲しい。
 思い浮かんだ顔に、今日は少し拗ねた。

 あんなに怒らなくてもいいじゃないか。
 そりゃあちょっと悪戯が過ぎたかもしれないけど。
 俺だって玄人よ?
 道具の選び方も、使い方も、加減のしかたも、誰もが満足いく腕前だ。
 なのに、翌朝隣で目を覚ます君だけは、不満らしい。
 ・・・・・・縛り方が気に入らなかったのかな。

 乱れた昨日の君に、にやつく口。
 鳴海は、慌てて咳払いをした。

 掌で弄んでいたダービーハットを、ぎゅっと被る。
 代わりに掴むのは、あの子だけが喜んでくれる、あの子のためだけに選んだもの。

 初めて事務所の扉をくぐった時のような緊張感と、若造のように高鳴る心臓。
 冷たい風も、思い切って吸い込めば、中では熱くなるはず。
 
 かつては逃げるために使っていたこの手を、寄り添うために握ります。



 さぁて、謝りにいきますか。
 








 
                                     2006.9.20