型にはまった攻撃。
慣れすぎた痛覚。
単調な、いつもと変わらぬ悪魔達との戦闘に、溜息が出た。
不謹慎だが、どうにも張り合いがない。
打撃を外にはらい、返す刀で一体を屠った。
怯えた悪魔が、自棄になって突撃してくる。
無言でさばく。
残りの一体にも肉薄し、異形の身体は折り重なるようにして屍の上に倒れ伏した。
筈だった。
「・・・・・・っ!」
咄嗟に空いていた左手で、其れを薙ぎ払う。
焔と衝撃に腕が痺れた。
深手を負いながらも、彼の悪魔が杖を投げつけてきたのだ。
ライドウは右手を捻り、柄で相手を打ち据えた。
・・・・・・今日の悪魔は、随分と骨がある。
悲鳴を噛み殺す等、奔放な彼等にしては珍しい。
「ウコバク」
今度こそ地面に倒れた対象を見下ろす。
「ウコバク」
ぎょろりと此方を向く血走った眼。
既に抵抗する余力はない筈なのに、唯一犯行してくるその眼力。
気に入った。
悪魔で反抗的な其の態度が、たまらない。
繰り返される日々の惰性へ、亀裂が走った。
久方ぶりの興奮だ。
服従させたい。
―――支配の定理と、
仲魔にしたい。
―――依存の定理故に。
枯れた身体を手招きする。
「僕の下へ来い」
だが、手は貸さない。
「這い上がって此の手を取れ」
「・・・・・・もう一度、オレをリスペクトするか?」
噛み合わない会話に、ライドウの瞳に戸惑いが走る。
「釣って放した魚は、忘れるたちか?」
―――まさか。
声に出さぬ呟きが届いたのか、懐かしい笑みが返ってきた。
「モジャ野郎は元気か?」
驚愕に動きを止めた白磁の頬に、ウコバクはぺっと唾を吐きかけた。
「冗談じゃねぇよなぁ・・・・・・」
打って変わって昏い声。
「捨てた相手をもう一度服従させるってか? あぁ?」
「・・・・・・」
「しけた面しやがって。蓄音機ぐらい鳴らして出迎えろよ」
漸く、十四代目は息を吹き返す。
「・・・・・・懐に入らない」
「アナーキーになれよ。天下取れるくらいによ」
「僕は帝都を護る者だ」
「けっ。散々こっちを虐めておいてよ」
ウコバクは、からっと笑った。
「オレはお前に協力する気は、もうないぜ。さっ、とっとと煮るなり焼くなりしやがれ!」
「厭だ」
「・・・・・・あ?」
「お前を焼いてもゴウトの食事になりそうにない」
「テメッ・・・・・・」
「僕の手を煩わせるな。僕の世話をしろ」
「はあ・・・・・・?」
「お前を無償で殺してやる程、暇ではないんだ。僕に殺して欲しいなら」
冷酷で美しすぎる笑みが浮かぶ。
「相応の物を捧げろよ」
「ひっでぇ奴」
・・・・・・前にも似たような事を云った奴がいたぜ、と悪魔はぶつぶつ云う。
「サマナーにまともな奴はいねぇのか?」
「僕がいるだろう」
「オレは、まともな奴にゃあ興味がねぇんだ」
「僕はまともだ」
「興味が湧いてきたぜ」
ウコバクは拾った杖でライドウの尻を叩き、ぴょんと跳ねた。
「刺激のある捜査を頼むぜ」
頭がパンクするような、痺れるやつをよぉ。
「奴等の為にもな」
「・・・・・・?」
「聞こえなかったなら、いいさ」
ライドウは、無言で封魔した。
暫くかたかたと震えていた管は、やがて静かになった。
2007.2.22
|