世界には三人そっくりな人間がいるっていうだろう?
だからいいんだよ。
お前でなくても。
お前が駄目なら二人目。
二人目が駄目なら三人目。
最後も駄目なら恋する人間なんて、しれているんだろうよ。
寂しさを口にするのにも飽きてきた。
面倒が嫌いなんだ。
だからお前でいいよ、今夜の相手は。
二人・三人と別れを繰り返すなら、いっそのこと・・・・・・。
ふっと正気に戻って頭を振った。
妄想を振り落とし、羽織を着込むように薄い掛布団を纏って、窓を眺める。
「俺もまだまだ若いねぇ」
月が凍ったような光を放つから、ついつい寒々しいことを考えてしまう。
莫迦臭ぇ他愛ねぇと、鳴海はほろ苦い吐息を吐いた。
途端、隣人が寝言を漏らす。
此奴にも可愛らしい所があるんだな。
とても普段、傲岸不遜に鳴海を冷視し、綺麗すぎる面を崩そうとしない少年には見えない。
自分の領域では、隙を見せる動物のように。
「・・・・・・っ?」
「何でもねぇよ。寝てろ」
身じろぎを止めた躰の代わりに、白い瞼が震えを起こした。
「眠れないのか」
「いや~、延長戦がしたいなぁと思って」
茶化して云ってみたものの、少年は沈黙し続け、ぽつりと呟いた。
嘘つきめ、と。
「貴様は嘘を吐くと手の振りが大振りになる。見抜くのは容易いのだ」
「嘘。俺、今、手ぇ小刻みにしか動かしてないよ」
「まだあるぞ」
「何?」
「気が乱れている」
唇がひくりと動いた。
反則だ。
そんなこと、隠し通せないじゃないか。
「・・・・・・むっかついた。やっぱりやらせろ」
「気が乱れているが」
「教えてやるよ」
四肢を拘束し、少年の首に噛みついて、にっと笑った。
「興奮してるんだよ」
「世界には、自分と似た奴が三人いるんだってさ」
「・・・・・・」
気だるい空気の中、荒い息しか返らないが、鳴海は続ける。
「お前はライドウとかいう奴に会ったんだから、後二人か」
「あれは厳密には違うのだがな・・・・・・」
「ふぅん? で、どうよ」
「完全に気持ちいいものではないな」
「へぇ。気に入ったんだ?」
口元をにやつかせたが、内心鳴海は面白くなかった。
「ま、俺はお前に似た奴に三回も逢うのは厭なんだよね」
「我だとて、お前に三回も逢うのは御免被る」
さっさと夜着を着込み、少年はベッドに正座する。
「だから、当分は貴様で我慢してやろう」
「我慢だと・・・・・・?」
首だけで振り返る少年の眼は、冷え冷えとしていてぞくっとした。
「似た自分に逢えば、其方の方を気に入るかもしれないからな」
くっ、と笑い、少年は極上の笑みを浮かべる。
「我の『気の乱れ』を正常に戻す手伝いをさせてやるぞ」
冗談じゃねぇ。
ひらりと遠ざかろうとする着物の裾を引っ掴んで、此方に引き寄せた。
驚きもしない瞳が憎たらしい。
本当に冗談じゃねぇよ。
さっと少年の帯を解き、白い躰に打ち付けた。
鋭い音がしたが、鞭にはほど遠い威力。
届かない此の苛立ち。
真っ正面から見据えてくる双眸が気に入らない。
畜生。売られた喧嘩は買うぜ。
「お前、俺を選べ」
「何故」
「後悔させてやる為だ」
怒りだか何だか知らないが、体が熱くなった。
その肌を氷でなぞるように、少年は視る。
「幻滅なら疾うの昔に済ませたが?」
一言で、鳴海の体温は失われた。
此奴の躰は本当に熱かったのだろうか?
・・・・・・確かめたい。もう一度。
不気味な余裕をひっくり返したい。
だから、両手を上と下の穴に突っ込んだ。
「・・・・・・っ、あっ・・・・・・」
さっと躰を染める様に、鳴海はほっとして、次いでくらくらした。
自分より熱い中に、浮かされて。
更なる熱を求めて、自身を其の中に埋めていく。
「俺に逢わなきゃよかったって思うくらい、惚れさせて跪かせてやる」
背をそらせて喘ぎながら、白い熱は冷気も放出する。
「跪くのは貴様の方だ」
「冗談」
だから冷気ごと鳴海は呑み込む。
いや、熱を突き立てる。
此奴に三回も出逢い直したら、熱が無くなっちまう。
だから、三人目まで待つよりも、
この熱ととことん付き合ってみようか。
出しながらも、更に奥の熱を求めて動く。
熱をひねり出す。
悲鳴。懇願。失神。
その程度で赦すと思うな。
三人目を探すのは、面倒臭ぇからさ。
2007.8.8
|