誰とも話したくない。
独りがいい。
身を凍らせるような無音で全てを遮断したい。
自分の思考ですら。

闇の中で降り積もる雪のような此の感情が邪魔だ。
歩みを鈍らせる。
無理に引き抜いた足には、未練の雫がべったりと付いている。

厭だ。
止まるのが怖い。
歩けなくなるのが辛い。

越えなければ。
何処かに進まなければ、こんなに苦しい道程に意味がなくなる。

どろどろになって眠りたい。
汚辱を全て其の中にはき出して、強く目覚めたい。

それなのに。
今日は、どんなに瞼を閉じても眠れない。

「忌々しい・・・・・・」
苛立ちを隠せず、雷堂は目を開けた。
元々眠りは深くない方だが、平常時に一睡もできないのは珍しい。
何が我を狂わせるのか。
明確には解らないのもいけなかった。
こうなったら根比べだ。
自分の躰と勝負するなど、少々おかしな話だが、此の四肢が眠りに蕩けるまで、起きていてやる、と誓った。

「・・・・・・る~るるっ♪」

阿呆らしいというのも阿呆らしい鼻歌が何処からか聞こえてきた。
断じて今のは、我ではない。
人前で歌うのは、少々恥ずかしいし、歌うならばきちんと歌うからだ。

「るるるる~るるるーっ! るーらーるーららー莫迦莫迦少年えろ少年~♪」

絶対に此の酔っぱらいと鉢合わせたくない。
雷堂は、さっさと其処を去ろうとしたのだが、闖入者の方が一足早かった。
「るーるーるーるー♪ あっれぇ? もしかして雷堂ちゅあん?」

神よ。我を見捨てたもうたか。
ぎぎぎと首を動かせば、何となく予想できた人物がいた。

「人違いじゃないですか。では、僕は、此れで失礼」
「嘘つけ。演技下手過ぎ」
「真人間のような事を云うな! あ」
「あっは~♪ 雷堂ちゅあん~♪」
すぐにへらっとした表情に戻って、鳴海は雷堂の方へ上機嫌で寄ってきた。
「此処、涼しいのか?」
「・・・・・・少し寒いくらいだ」
「ぶすっとしないの。愛想ないんだからお前。よっこいしょっ」
「・・・・・・何をしている」
「あ?」
「何で、我の膝を枕にする?」
「俺が使いたいからよ」
「我は許可していない」
「お前、自分の膝で眠るわけ?」
「いや、それは・・・・・・」
「じゃあ俺が使っても問題ないだろう。有効利用だ」
「意味がわからん」
「俺がわかってるからいーのいーの」
「・・・・・・我は、一人になりたいのだ」
「ふーん、そ」
「・・・・・・貴様は・・・・・・!」
いつもいつもいつもいつも。
どうして我の神経を逆なでするのか。
梃子でも動こうとしない鳴海に腹が立って、雷堂は鳥の巣のような髪をくしゃくしゃにかき混ぜてやった。
思ったより柔らかい感触に、何故か哀しくなって、突然、行為を放りだした。
荒い息に、男の静かな寝息が重なる。

莫迦だ。
二人とも莫迦だ。
町外れの誰も来ない白けた木の下で。
いつもと同じ距離を保つための嘘をついている。

「雷堂」

名前を破れて、びくっと躰が跳ねた。
「此れ、やる」
「何だ」
「拾った」

手に取ると、懐かしいような、絶望的に渇くような不思議な気持ちがわき上がってきた。
「何だ此れは」
「過去を渡る香炉」
「本当か・・・・・・!?」
「うっそー」
雷堂は怒りのあまり、声も出なかった。
と、急に強烈な目眩に襲われて倒れた。
気づけば、肺一杯に、香炉からの匂いが満ちていて。
気持ち悪い。
「象でも発情する薬。漸く効いたかぁ」
地面に頬杖をついてにやにや笑う男が憎らしい。
いや、其の顔すらも霞んで。
いつもは抵抗するのに使う指も、其の髪を優しくかき回すしかできなくて。
ベルトを外される音と。
灼熱に包まれる感覚に。
何度も声も放って。
眠りを拒む躰が、溶けていって。
穿たれる感覚も、わけがわからなくなる程、乱れて。
躰を白くべとべとにされて漸く。
眠れない理由を見つけ。
日々の無意識の圧迫感を認識し。
積もっていた雪も溶け出して。

曙光の白い意識に、到達できたのだった。








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雷堂。プチストレスに安眠できズ・・・・・・なお話しでしたv
何か萌えじゃない内容で申し訳ない(汗)
自分も溜まってるみたいっす!<何が?
エロを久しぶりに書こうとして失敗したアルの話でもありました。
がつっとエロ書きたいエロ。
エロ神かむひあ!

ま、雷堂に「僕」と云ってもらえて、自分、幸せッス!
こんな時だけライを使う雷。
酷い仔! でも好き!

題名の白砂青松。
綺麗な景色のことですが、皮肉気味に使ってみました。
自分でもよくわからん・・・・・・!<オイイィイイ

ちなみに、鳴海が歌ってる歌。
気づかれました?
あれ。●子の部屋の曲ですから。
エロ少年~♪ のところも、きちっとはまります。<関係者各位に陳謝
今回の作業は、其れを書くのが楽しくてたまらんかった!
暗い話と思わせといて、こういうことしますから梶浦。
萌えに力つかえという話ですね。すみません。

それでは、皆様、次のお話でv (るーるーるーる~~~♪<●●の部屋風)

                             
      2008.1.18