所長が座るべき椅子と使うべき机を使って、雷堂は書き物をしていた。
これまた所長が処理するべき書類なのだが、催促の電報と人が後を絶たないので、此の事務所では、助手が出来る範囲の書類整理は、雷堂がすることになってしまったのだった。
今日は其れに付け加えて、ふらりとやってきたライドウが机を挟んで頬杖をつき、雷堂を触ったり、首を傾げたり。
兎に角雷堂を苛立たせることしかしないので、
「ライドウ」
「何ですか」
「邪魔なんだが」
「酷いですね。同じ顔に向かって、そういうこと云います?」
「云う。邪魔だから、目の前に座るのは止めてくれ」

ライドウは、すっと立ち上がった。
「・・・・・・っ、真横に座るな!」
「注文が多いですねぇ」
「貴様な」
「集中力が足りませんね。ちゃっちゃと報告書くらい書いて終わらせて、僕と遊びましょうよ」
ぐいと雷堂の帽子を自分の鍔で押して、耳元で囁いてくる。
「貴様がいると、集中できなくなるのだ」
溜息を吐くと、何故かライドウが嬉しそうな顔をする。
意味がわからない。
「心頭滅却してみる。だから、せめて壱メェトルは離れてくれ。帽子の鍔が当たらない距離に」
「仕方ないですねぇ」
衣擦れの音とともに、雷堂の足下で不穏な空気が立ちこめる。
厭な予感がした瞬間、ベルトを抜かれ、前に手を差し入れられた。
「・・・・・・っ!」
「心頭滅却、でしょ?」
「ば、莫迦が! そんな破廉恥な・・・・・・っ!」
「できないんですか。十四代目とあろうものが」
唇を、くいっと上げてライドウが笑う。
「此の程度で、事務処理が出来ないと?」
「我を侮るなっ! できるとも!」
「じゃあ、早く終わらせて下さいね。書類」
邪気の無い笑みを机の下から見せながら、ライドウは手を動かした。


「・・・・・・っ、ふぅ・・・・・・」
緩急をつけた刺激に、雷堂は息を詰めた。
もう一人の我だからなのか、今までの情交で覚えたのか、ライドウは雷堂の躰を知り尽くしたような手つきで、触ってくる。
書類に集中しようとすれば、我から強い快感を引き出し、
手元が覚束なくなると、まだ耐えられる箇所に指を添えてくれる。
既に下着は、滴りそうな程濡れているのに、未だ極める事がないのは、其のせいだ。
しかも、雷堂さえ知り得なかった快楽の洞穴を次々に見つけ、砂金を拾うように秘められた性衝動を容易く拾い上げていく。
根性で一枚は仕上げたが、二枚目の書類は、手汗とどこからか流れてきた体液で、文字が滲んでいる。
もしかしたら、目も潤んでいるのかもしれない。
筆記用具を持つ手指が、震える。
「もう降参ですか?」
意地悪く見上げてくるライドウが、くすくすと笑う度に「いやまだいける!」と奮起するのだが、十秒と持たない、持たせてくれない。
しかし、我から強請る事もしたくはないし、さりとて改善の余地のない状況に、どうするべきか決めあぐねていた。

「たっだいま~」

こんな時に・・・・・・!
まだ夕方だというのに、酔っぱらった鳴海が帰ってきた。
もし此の破廉恥行為を見られたら末代までの恥!
雷堂は真っ青になって、股下のライドウを蹴ろうとしたが、急に含まれたものだから、眉間に皺を寄せるだけで精一杯だった。
「あ~もう今日は飲めないな~」
対抗するように、じゅるっと我の下から音がして、憤死しそうになった。
「ちょっと風呂入ってくるね~」
ぽいっと雷堂の使っている机の上に、上着と荷物が放られる。
「あ。それ食べてもいいぜ」
「な、何だ?」
「チョコレェト」
「・・・・・・」
鼻歌と鳴海が去ると、にょきっと雷堂の目前に白い手が生えた。
「あ。そうだ。全部は食べるなよ」
既に半裸の鳴海が、壁から顔を出し、今度こそ風呂に行った。

あ、危なかった・・・・・・!
ライドウの手を叩いて、雷堂は睨んだが、当の書生は悪戯っぽく笑って、早速包みを開け始めた。
勿論、雷堂を口内に入れたままで。
卑猥な構図を直視してしまった頬が、再び熱を持つ。
視線を外せず、気持ちよさが増して、嫌悪感と快感に、もうよくわからなくなっていた。
器用に剥いて、中身を取り出したライドウは、表面をぺろりと一舐めし、あろうことか、
「・・・・・・ひっ!」
まだ強ばっている雷堂の穴に突き入れた。
「やめ・・・・・・ろっ!」
「そのうち溶けますって」
「そういう問題ではないっ!」
はっとして、雷堂は声が近所に漏れないように、小声でライドウを責めたのだが。
「僕にとっては、そういう問題ですから」
ライドウは次のチョコレェトと雷堂を、ぱくっと食べた。
二つのものを同時に舐める感触。
舌で転がされるだけでも、目が眩むのに、経験したことのない硬いような柔らかいような不思議な硬度が、想定外の動きで雷堂を攻めてたてていく。
舌とチョコが蛇のように雷堂を絡め、押さえつけ、時に溶かし、解かし、急き立てる。
時折、暴れる自身と紅と茶の動きが各々主導権を争って、痛みとも痺れともつかない波を生み出せば、不埒な指が尻の最奥や胸の頂を探り当てて、甘い波でさらっていく。
相反する刺激を、全て快感に変えた時。
とうとう雷堂は高い声を放った。

「大人の味、かな」
もごもごと口を動かして、ライドウは口を開いて見せた。
茶と白がどろっと混ざり合って。
普段は紅い筈の舌が桃色に染まり、ゆっくりと厭らしくかき混ぜる其の光景。
目がチカチカして、死にそうなくらい恥ずかしい。
猫のように躰をくねらせながら伸び上がったライドウは、余韻と過度の呼吸に震える唇に、二人の合作を流し込んだ。

「僕からのバレンタインチョコです」
甘くて苦い、味。
何がチョコだ。
何が恋だ。

新たに押し入ってきた硬い熱に自我ごと掻き混ぜられて、雷堂は細い躰にしがみついた。
本来の意味と逸脱した、此の時間に、心の中で悪態をつきながら。


「来月のお返し、待ってますからね」
「やらぬわっ!」
鳴海が風呂からあがり、雑談して部屋に戻るまで、ライドウに悪戯され続けた雷堂は、其れだけ云って、気絶した。



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mixed ━━ a. 混ざった; 混成の; 男女混合の; 異種族[異教徒]間の; 頭の混乱した ((up)).
                                                 (goo辞書より)
mixed chocolateというのは、勝手に私が勝手に作った言葉なので、流しておいてくださいねv
大正時代にバレンタインデーのイベントはなかった筈ですが、ご容赦を。

ちなみに、mix it (up) 〔話〕 なぐり合う ((with)).
ためになるわ~。鳴雷。ライ雷。どっちも使える!<どんだけバイオレンス

 後学の為に、自分メモ→ chocolate soldier 戦闘を好まない兵士.
  人権関係にひっかかる言葉かと思ったのですが、そうでもないようで。
  甘い奴ってことでしょうかね。
                                   2008.2.14