丁寧な物言い、非の打ち所のない完璧な容姿。
 流れるような所作で、最高の礼をされた時は、正直戸惑った。
「こちらこそ宜しく。ライドウ君」
 今日から助手になる少年に、鳴海は手を差し出した。
 ふぅん。左手を出しますか。
「右利きかい?」
「はい」
 腕は立つけど、隙はあり、と。
「ライドウ君の好きなものは?」
「お芋です。蜜たっぷりの」
「嫌いなものは?」
「特にありません」
「じゃあ苦手なものは?」
「・・・・・・わかりません」
 初めて少年の表情が変化して、鳴海は嬉しくなった。
「じゃあさ、こういうのはどう?」

 言うなり、ライドウに口づけた。
 舌こそ入れなかったが、ちゅっと音を立てる。
 少年は、咄嗟のことにきょとんとしている。
 足下で、にゃあと声がして漸く動いた。
「あ、の」
「ん?」
「今のは・・・・・・」
「気持ちよかった?」
 厭かどうかは聞かない大人。
 戸惑いながら、子供は頷いた。
 
 脈あり、かな?
「俺のことは、鳴海でいいから」
 沈黙の後、艶やかな唇が味を確かめるように

「鳴海、さん」

 鳴海はくらっとした。
「何なら、ダーリンでも貴方でもご主人様でもいいよ」

 白くてすべすべの手を取ろうとして、鋭い爪に引っ掻かれた。
 軽く声を上げると、二人の間を裂くように漆黒が降り立った。

「俺はゴウト。たった今から、お前ら『二人の』目付役になった」
 
 碧の輝きが、鳴海を射る。

 ・・・・・・これは、厄介なことになりそうだ。
 鳴海は強かに、にこりと笑った。

「宜しく。ゴウトちゃん」

 気のない振りをして。
 ライドウは、俺がもらうよ、と心の中で呟く。



 手を差し出すと、肉球の代わりに猫パンチが飛んできた。






                                    
2006.8.22