「ライドウ~、お芋買ってきたよ~」
えい、と冷たそうなライドウの頬に押しつけて。
鳴海は、悪戯っぽく笑った。
新聞紙からひょこっと顔を出したのは、ほくほくの塊。
流石に、冷ましてはあったけれど。
食べて食べてと色づいたその体。
黄色いそのこを呑み込んだ唇を、早く舐めたいなぁと不埒なことを思いながら、ライドウに、ほら、と再度差し出す。
無邪気な微笑みに、いつものように少年が騙されてくれることを見越して。
だが。
「今日は野暮用がありますので」
お二人で食べていてください、と。
ライドウはゴウトも連れずに、そそくさと探偵社から出て行った。
顔を見合わせた一人と一匹は、互いの瞳に原因を見つけられず、同時に首を傾げた。
「大学芋の方がよかったかな?」
大学芋。芋の天ぷら。趣向を変えてチョコレェト。カステラ。
毎日一つずつ。鳴海はライドウに勧めたが、返るのは首を振る仕草一つ。
「厭じゃなさそうなのにねぇ」
むしろ背を向ける瞬間の瞳は、揺らめき、唇は我慢の為に引き結ばれている。
しゃくしゃくと頬張り、本日の甘味、水瓜の種をぷっと吐き出す。
「鳴海さん、行儀が悪いですよ」
「はーいはいはい」
「・・・・・・」
『はい、は一回』
重なった子供と大人の声。
先に笑えば、相手は怒り顔。
嗚呼、可愛い。可愛いなぁ。
ごめん、と謝り益々笑えば、頬が紅く染まって眼だけは笑ってくれた。
咳き込むふりをして、鳴海は考えた。
何か理由があるのかも、とそっとしてあげたい気持ちは半分。
無理矢理、聞き出したい気持ちも半分あって。
「ライドウ」
ちょいちょいと手招きをして、ライドウの襟元を引き寄せ、唇を合わせた。
「・・・・・・っ!」
驚きか、ここのところご無沙汰だったせいか。
ライドウは中々唇を開かない。
鳴海は、強情な鼻を摘み、逃げ道を塞ぐ。
相手も相当抵抗したのだが。
狡さを自覚している分、こちらの方が断然有利で。
そうして漸く、思う存分、甘くなる。
「あ~・・・・・・泣かないでよ」
一緒に気持ちよくなって、散々いたした翌朝。
ライドウは、鳴海に背を向けたまま泣きやまない。
平常で泣くこと自体珍しいのに、鼻をぐずぐずいわせて布団に丸まって、まるで駄々っ子のようだ。
「だ・・・・・・っ、て」
「ん?」
「・・・・・・が」
「んー?」
ライドウを背後から抱きしめて、鳴海は耳を擦り寄せる。
「願いごと、が、」
叶わなくなってしまいました、と。
もごもごと告白した。
「つまり、こういうこと? 自分の好きなものを我慢することで、強い願掛けをした。で、ライドウは大好きな甘いものを食べないことで、願いを叶えようとした」
「・・・・・・」
「はい、は?」
「は、い」
「宜しい」
頬を緩めた鳴海は、次いで罰が悪そうな顔になる。
「ごめん、な。俺、お前の想いを踏みにじった」
ライドウに回した腕を、引っ込めていく。
それを掴んだ掌に、鳴海は、はっとした。
「ラ・・・・・・」
接吻け、られた。
後ろめたさも手伝って、暫し動かずにいたのだが、やはりそこは誘惑には乗りたいわけで。
嗚呼、俺も甘いものが、好き。
「鳴海さん」
近づけた唇を、掌で止められた。
相槌を適当に打って、気持ちのいいそれを舐め、甘噛みする。
「貴方に、託しましたから」
「・・・・・・え?」
「願い事」
にこっと微笑む貌には、年相応の無垢と大人っぽさ。
「今度は、貴方が我慢してくださいね」
「えー!?」
唇を曲げれば、お仕置きです、と云われた。
うわっ、やらしい言葉。
「で、結局ライドウの願いって何だったの?」
「秘密です」
真っ赤になる横顔が、やっぱり可愛らしくて。
暑さ以外で出た汗もどきを、舐めて、舐めさせ、舐めた。
「俺、甘いものは我慢できそうにない」
言い訳ターイム!
はい、何これって感じですね。
三十代これでいいのか。十七歳乙女過ぎる、もっと怒れ。いっつもと雰囲気、人物像が違う・・・・・・等々、ご不満は、あると思います。
えぇっと、説明しますと、実はここ数日、梶浦の脳内がお笑いモードでして。切ない話を書きたいのに、全くそのテンションにならなかったんです。こりゃまずい! ということで、可愛い話でも書こうかとペソペソ書いてみれば、うっかりこういう話になってしまいました。(土下座)
夏がテーマって、水瓜だけだ、し。
は、ははっ、もう謝罪の言葉と冷や汗しか出てこないなぁ。
あ! 朝チュン(・・・)は、初めて書きましたが難しかったです。
・・・・・・。
・・・・・・。
・・・・・・。
と、ということで・・・・・・(逃)
2006.9.12
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