「ライドウ」
「・・・・・・ん」
「ライドウ、起きろ。遅刻するぞ」
 帽子に、掌が置かれる感触がした。
「・・・・・・ゴウト?」

 はっとしてライドウは跳ね起きた。
「ゴウト!?」
 思わず帽子に手をやるが、数瞬前の感触は既にない。 

「・・・・・・鳴海さん?」
 森の中を見回すが、ライドウの午睡を妨げた者の存在は、いない。

「夢、か」
 ライドウは苦笑し、すぐに笑みを消し、身を縮こめた。
 いるわけが、ないのだ。
 あの黒い猫は、ライドウの目の前で消えたのだから。


 夢の中ならば会えるだろうかと、幾度願い、その度、果たされなかったのだろう。
 まどろみの中ならば思い出さずにすむかと横になれば・・・・・・この始末。


「十四代目、失格、かな」
 ゴウトがいなくなって、そんなことを初めて思う。


 帽子をかぶり直し、ライドウは先ほどの奇跡に身をゆだねる。

 ・・・・・・ゴウトならば、五指の感覚を感じるはずはないのだ。
 なのに、あの口調、あの温かみは・・・・・・。

 ライドウは、ふと空を見上げた。
 そこで途切れた想い人の痕跡が、どこかに現れないかと。
 






 初代。
 あなたは罪から解放されたのですか。
 ―――そして、僕に会いに来てくださったのですか・・・・・・



「ライドウさま・・・・・・」



 ぽろりと涙が落ち、歓喜とも悲鳴ともつかぬ嗚咽が漏れた。










                                     
  2006.5.28