ライドウは待っていた。
 来るとも知れぬ、ただ一人を。
 叶わぬ願いだと半ば諦めながら。
 それでも何かに縋るように、掌のひとひらを握り続け・・・・・・
 
 川面に映る天つ星を見ながら、彼は橋の上で待っていた。

 二人が最後に逢った、あの場所で。








「何をしているのだ」

 嗚呼、とライドウは感嘆の声を上げた。
 この夜に、奇跡が起こるのは誠であったと。

「人を、待っていたんです」
 彼の近づく気配。
「魔・・・・・・かもしれません」
「我の知っている者か?」
「・・・・・・人相書きは持っていませんが」
 ライドウが声の主に振り返る。
「こんな顔をしているようです」
 ライドウは緩く微笑むと、雷堂の頬に触れる。
「また、傷が増えましたね」
 雷堂は、添えられた指先をちろりと舐めた。







「こちらも七夕なのか」
「珍しいですね。時間軸が合うなんて」
 ライドウは初めて二人が出会った時を思いだした。
「業斗は元気ですか」
「あぁ。鳴海をいつも引っ掻かいている」
「かっこいいな」
「今日はいないぞ」
 我だけで来た、と涼しげな風に乗って聞こえてきた声に、ライドウはうっとりした。
「二人っきりですね」
「牽牛と織女のように・・・・・・などと云うなよ」
「貴方が云ってくれましたから必要ありません」
「・・・・・・迂闊」
「貴方は七夕のことを知っていましたか?」
「業斗に訊いた」
「鳴海さんも教えてくれましたか」
 共犯者のように二人は笑う。








「我は星などに興味はない」
 吉凶はともかくとして。
 ぽつりと雷堂が漏らす。
「星など・・・・・・見えなくていいのだ」
 地よりも眩しい輝きに目を背け、雷堂は彼を見つめる。

 七夕など知らなければよかった。
 その日を思って、雨の日ですら気を取られるだろう。
 恋し恋しと空を眺める女々しい行為など。
 逢える日を待ち望んでしまう自分が。
 なんと愚か。
 逢えた日を、胸に焼き付けるお前が。
 酷く憎く、愛しいなどと。


 雷堂は、ライドウの掌に視線を寄せる。
「何を書いたのだ?」
「あ・・・・・・・!?」
 
 雷堂は、黙り込み、ついで、微笑む。
「貴様は莫迦だな」
 くしゃり、と掌で短冊を握りつぶし、雷堂は筆跡の主を引き寄せる。
「願いとは叶えるものであろう? このような不確かなことに頼らぬことだ」
 恋し恋しと空に願うくらいなら・・・・・・。
「奪ってでも手に入れて見せろ」
「・・・・・・」
「少なくとも・・・・・・我は、そうする」
 熱く痺れるような吐息を混じえて、雷堂は囁く。
 だからこうして逢いに来たのだと。
 ライドウが逃げるのを赦さず、しかしいつもよりも幾分優しく、雷堂は、抱きしめた。
 
 ライドウも、慈しむようにその背を撫でる。
 



「雷堂・・・・・・」

 ライドウが少し身を離し顔を上げると、何も見せぬとでもいうように雷堂の唇が降ってきた。
 なぜか、泣き笑いの形をとっているような気がした。













 雷堂ver.です。
 珍しく甘やかなお二人でした! はははベタなネタ(泣)

 見直した時に気づいたんですが、雷堂さん乙女やのぉ(そう?)最後にちゅうをしているのは、星にすら嫉妬し、「星など見せぬ」と思ったからかもしれません。やっぱ乙女だ雷堂!(まじ?)

 梶浦の書く雷堂は、鬱屈しながらも素直に(激しく)考える方なので、感情などが書きやすいです。だから他のキャラより、筆がのる(笑)でも乙女(墓穴)

 今日か明日中には、もう1ver.更新すると思います。
 しなべさん、リクエストありがとうございました!

                                        2006.7.08