「へぇ。雷堂って七夕知らないんだ」
ニヤニヤと笑う顔が不快で、気恥ずかしく雷堂は目つきを鋭くした。
「貴様に教えてもらう必要はない」
「はいはい。教えてあげます。だから機嫌直してよ」
鳴海は椅子に座ったまま雷堂の襟首を掴み、引き寄せる。
「ね? 今日は業斗もいないんだし」
「・・・・・・」
雷堂は、次こそ猫じゃらしを使おうと思った。
「雷堂が知らないってことは、向こうのライドウちゃんも、やっぱり知らないのかなあ」
気に入らない、と雷堂は顔をしかめた。
「まずは、その紙に願い事を書いて」
一山はある短冊に、雷堂は一瞬呆けた。
「一枚で事足りるが」
「雷堂って照れ屋?」
「どこからそんな発想に辿り着く・・・・・・」
「雷堂の野望と欲望は一杯あるでしょ? 鳴海さんに貢ぎたいとか。鳴海さんと喘ぎたいとか。鳴海さんを愛したいとか。ついでに帝都守護」
「愚弄するな。それに最後は使命だ」
「じゃ、そんな感じで」
強引に椅子に座らされた雷堂は、仕方なく筆を取る。
淀みなく書いていく所作は美しく、その美貌と相まって俗世を寄せ付けない高潔さとそれ故の引力に満ちている。
鳴海も例外ではなく、書生に見惚れた。
「・・・・・・何だ」
「いや、書けた?」
「まぁな」
「じゃあ。こっちに来て」
有無を云わさず鳴海は、扉を開けた。
雷堂は鳴海の自室に入った。
初めて足を踏み入れた時は、以外に片付いている部屋に驚いたものだが、今は調度品がどうとかスーツの数が増えたの減ったのすら、どうでもよくなった。
危険を知らせる違和感にさえ気づければ、特に知る必要もない。
胡桃材の机の横、アンティークのソファに笹は立てかけられていた。
これに短冊を結べということだろうか。
紐でもあれば、結びやすそうだが。
「どこ行くの、雷堂」
「紐を探してくる」
「はははヒモならお兄さんがなってあげるよ」
「・・・・・・一生云っていろ」
ドアノブに手を添えたところで、雷堂は後ろへ蹌踉ける。
ぐい、と掴まれた腕ごと鳴海の胸に収まった。
「・・・・・・っ、貴様」
かっとした雷堂は、鳴海に一撃を見舞おうとして愕然とした。
身体に、力が入らない。
「甘いなぁ、雷堂ちゃん」
関節技を決めた鳴海は、いっそ優しい笑みを浮かべる。
とん、とん、と楽しそうに雷堂の肌を指先で叩くのを見ると、恋人達の他愛もない遊びのようにも取れる。
しかし、その実、鳴海は軍隊仕込みの体術を駆使して雷堂を拘束し、秘孔を突いて自由を奪った。
とん、と突かれて雷堂は為すがままにソファに座らされる。
「ねぇ、牽牛って莫迦だと思わない?」
くすくすと笑う探偵に、雷堂は眉をしかめる。
「好きな相手をさぁ、むざむざ川の向こうへ帰すんだよ? 一年間想うだけ。禁欲にも程があるよね」
俺なら耐えられないぜ、と雷堂を覗き込む。
普段なら抵抗の限りを尽くす雷堂も、この時だけは仕方なく接吻けを受け入れる。
舌を噛み切ってやりたかったが、軽く歯を立てることしかできなかった。
「もう一人の我なら、耐えてみせるだろうよ」
途中で壊れるかもしれないがな。
ぽつりと漏らすと、相手から殺気が噴き出した。
振り上げられた腕は、雷堂の頬ではなく、学生服に振り下ろされる。
布地が裂ける音と釦の飛び散る音が響いて五月蠅かったが、どこか無感動だった。
「楽しいか?」
「そうだねぇ」
「莫迦だな。我はお前に感じることはない」
無機質な雷堂の声に、鳴海は顔を伏せたかと思うと、肩を揺らした。
こらえきれないように顔を上げたその表情は、露悪的な悪魔の微笑。
「向こうの俺も、ライドウとやってるかもしれないなぁ」
初めて雷堂の顔に、朱が差す。
ライドウの痴態を想像したのか、同調したのか、もしくは屈辱なのか鳴海にはわからない。
だが、それで十分だった。
雷堂が欲情すれば・・・・・・他のことなど微々たるものだ。
後は自分と雷堂の問題。
同じ葛葉と雖も、邪魔は、させない。
逸る気持ちを隠し、鳴海は傷だらけの、だが驚くほど滑らかな肌を楽しむ。
「こうやって触れて、胸を舐めて転がして、ぐちょぐちょになるまで、いかせるんだろうよ」
言葉通りに雷堂を苛み、下肢に到る。
雷堂の手を掌で掴み、鳴海は一緒に雷堂を扱く。
濡れた手を、喘ぐ口内に運ばせ、互いに味わいながら鳴海は囁く。
「ねぇ。お前らって、味まで一緒なの」
「・・・・・・っ!」
溢れた白濁が、ズボンに垂れていく。
「空なんて見なくても、天の川は見られるんだね」
「・・・・・・お前の趣味は、最悪だ」
「合わせられる十四代目は変態だよ。今日はどこにも行かせないぜ」
「明日も来年の今日も、誰にも抱かせない・・・・・・」
瞼に、打って変わって優しく口吻られる。
雷堂は、業斗がいないことを今日だけは感謝した。
そうでなければ、この男、雷堂ごと全てを壊しかねない・・・・・・。
ぴりっと痛覚が刺激され、雷堂は視線で追う。
鳴海が雷堂の髪を一本抜き取り、短冊に通したのだ。
二人の短冊を一つに纏める。
以外と柔らかく艶やかな漆黒を、鳴海は雷堂の厭がる場所に結びつけた。
雷堂は、来年は復讐してやると胸に誓い、自分の背に押しつぶされる笹の音を聞く。
結局見られなかった星河を思って、ほろ苦い吐息を漏らしたのであった。
鳴雷ライver.でしたv
ソファが現れた時点で、★部屋話にしたくなったのは内緒です(笑)
描写は寸止めだから、い い か な。
鳴雷は初めて書きましたが、なかなかに新鮮です。鳴海さんが暴走するので、尚更楽しく、尚更軌道修正が大変でした(涙)もうこの人、すーぐセクハラするので・・・・・・。露悪的に書いてしまったので、ご不快の方は申し訳ありません。
にしても、笹に短冊飾れよ!(笑)どうして素直じゃないんだ皆の衆。笹あるよ、そこにあるよ、結ばないの? 反抗期かいと思いながら書いてました。どこに短冊を飾ったかはお好みでどうぞv(うっかり縛りネタ?)
この七夕SS、下手したらどのCPも笹の存在を無視するんじゃあ(青)
江支さま、リクエストして頂いたのにこのような出来になってしまい、土下座して陳謝致します!
それでも読んで下さった方、ありがとうございました!
2006.7.10
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