禁欲的なほどに真っ直ぐで細長い棒を、にょきとはえた歯で甘く噛んだ。
足の指で水墨を塗る坊主はいても、猫の身ながら筆をとるのは我くらいだろう。
よしっ。
今日も惚れ惚れする流線だ。
ふぅと感嘆の息を吐けば、妙な視線を感じた。
「・・・・・・」
ソファに座る書生と眼があう。
美しすぎる双眸が挑戦するように細められ、完璧な造形の指が、気怠げに動かされる。
すすすと、年代物の器を差し出すように。
ゴウトに其れを近づける。
「・・・・・・やらんぞ」
「ゴウト・・・」
「やらんといったら、やらん。我はもう、決めたのだ」
「・・・・・・可愛いのに」
すすすと自分の手元に、タイプライターを戻し、ライドウは溜息を吐く。
「ゴウトは変わったな」
「変わらぬものなどないだろう」
「俗な部分が増えた」
「・・・・・・」
「もっと好きと云えばいいのに」
「何を」
「僕のこと」
「お前も、じゅーぶん俗っぽいぞ」
「これも好きなんでしょう?」
「猫じゃらしは仕舞えって!」
「そういうところは素直じゃないんだから」
「五月蠅いわ! とっとと今日の操作記録をつけんか!」
ライドウの膝に、とすっと着地する。
「ほら! 今日は何があった!?」
「ゴウトが二度昼寝してました」
「我のことは、おいとけ! ほら! 別件依頼受けただろう!?」
「何でしたっけ」
「あぁもう、最初だけ書いてやるから! 『別件依頼進行也。』ーーー次、考えろ!」
「ん~・・・・・・」
「『金王屋(以下 甲)に傷薬を五ツ渡せり。甲、報酬として牛黄丹を』って、
おい。お前が考えているうちに、我が全部書いてしまうじゃないか!」
「でも・・・・・・」
延々と悩み続ける書生に、ぐるんと首を向ける。
「今日だけだからな! お前は、我の打ち方と文の作りをしかと観ておけ!」
昔より幾分はやい、しかしまだまだ単調なリズムが所内に響く。
「平和だねぇ~」
遅い朝飯を囓りながら、所長はのんびり欠伸する。
書生は猫に内緒で、ほくそ笑み。
猫の手は、いつしか楽しげに少し不器用に動き。
暮れていく帝都の夕陽を、それぞれ堪能したのだった。
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アバドンネタ一作目、が、これかーいなネタです。
ライ様とともに、私も納得できないことをねちねち書いてみました。<おい
だって、猫手で不器用にタイプライター打つのが好きだったんだい!
筆で、もよもよ書くゴウトにゃんも大好物ですが!<どっちだよ
2008.12.8
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