幼子のように縋り付き、泣く。
 繰り返し此方の言い訳を求めては、頭を振り、けれどまた、もっと、とねだる。
「俺は、お前の元に還ってきただろう?」
 いつもなら届かない腕を伸ばし、髪を撫でてやる。
 叱咤でもなく、呆れでもなく、愛情だけを籠めた掌で。
「泣いてもいいが・・・・・・泣きすぎて死ぬぞ」
 今度は、お前がいなくなるのか、と惚けたように笑ってやる。
 そうすれば、漸く落ち着いたのか、微かに唇を尖らせた。
 
 どうせ、また、貴方はいなくなるのでしょう、と。

「おいおい、また其処に戻るのか」
 会話にならんな、と溜息を吐けば、びくりと跳ねる身体。
「怒ってはないから、」
 安心しろ、と万感の想いで云う。

 言葉を、下さい。

「ん?」

 僕に、僕だけに、貴方の言葉を、約束を、下さい。

「難しいことを云うんだな」

 これ以上、何を云えというのか。
 
 この身体は、魂の器で、破壊されても、また姿を変えて戻ってくると。
 お前の元に、戻ってくると、散々云ったというのに。

「言葉はな、愛しい想いを伝えることはできるが、哀しみにもなっていくんだ。心の中でも嘘を吐く。自分で自分すら誤魔化す。今のお前がそうだ。俺の言葉すら信じようとしない」

 だから言葉以外で互いを識りたくなる。

「だから、躰で確かめあっただろう」

 白すぎる肌を撫でて、先のように接吻ける。
 唇に向かおうとして、初めて逸らされた。

 ・・・・・・強情な奴だな。

 耳を食んでやれば、何かに耐えるように拳を握った。
 吐息と吐息が混ざり合う。

 身体も、いずれ壊れるでしょう。
 ・・・・・・そうだな。
 今度は、僕の目の前で貴方は死ぬかもしれない。
 ・・・・・・可能性の一つだ。
 また、僕は耐えなければならない。
 ・・・・・・俺を忘れる呪でも、くれてやろうか?
 そんなことをすれば、心も体も無意識に歪むでしょう。
 俺は、自惚れるべきなのか・・・・・・。

 云って、下さい。





 黙り込む相手に、唇は開き続ける。
 幼子のように、また、ねだった。





 貴方を信じられる、僕を信じられる、言葉を。
 眠るまで囁き続けて。


 貴方が、夢と消えてしまう前に。

 ・・・・・・この時が夢ならば、さめないで。








                                         2006.9.07